第二章 でこぼこコンビは歌って殴る

第6話 ルイーずブートキャンプ

 追放騒動が落ち着いたので、エリーと相談した結果、冒険者ギルドに登録することにした。俺の個人登録と、パーティー登録だ。すったもんだの末、パーティー名は『シャインジョブズ』に決まった。登録自体はちゃちゃっと済ませて、ギルドを出た。


 チャモ爺さんの連続クエストの為に、幻の青のチャイナローズを取りに北西のスラム街へ行く道すがら、エリーと今後の予定について話す。 


「さっきは相談に乗ってくれてありがとう。今から向かうのは······あ、その前に俺の最終目標を話さないといけないか。俺の目的はずばりモンスターを狩りまくって、最終的には魔王を倒す。っていうのが大まかな今後の予定なんだけど、どう思う?」


「初耳ですね。ルイさん、そんな大事な事は勧誘する前に教えて欲しかったです。······まあ、でも、私に限って言えば、先程まで所属していた勇者パーティーの目的が同じ事を目指していたので、それを聞いてやっぱりやめるとかはないんですが······普通の人はドン引きしてオッケーした後でも逃げちゃいますよ」


「あはは······ですよね~。エリーに受け入れてもらえて良かった」


「もうっ! 調子がいいんだから」


「それと、もう仲間なんだから敬語はやめようよ。名前も『さん』は無しで呼び捨てでいいよ」


「わかりました。じゃあ名前はルイちゃんね」


「『ルイ』でいいんだけど」


「ルイちゃんは凄く可愛いから、ルイちゃんで」


「エリーって思ってたより頑固だね、まぁ好きによんでよ。それで、今スラム街に向かってるのは、ナイヤチ村で引き受けた依頼達成の為なんだよ。変だなと思う事があっても多分大丈夫だから、あまり口を出さずに見ててね」


「······? わかりました。黙って見てるね」


 スラムの入口にたどり着いた。青いチャイナローズを手に入れる為に、ここから怒涛のカツアゲイベント開始だ。先ずは入口にいるガラの悪い男からだ。


「おう、姉ちゃん、ここを通りたきゃ通行料を払っていきな」


「いくらですか?」


「500シグだ」


「はい、500シグ」


 中に入ってからも、父親が怪我をして家族が生活していけない、と泣きじゃくる少年にはポーションを与え、母親が目が見えないと泣きじゃくる少女には目薬を与え、明日食べるパン代もないと泣く少年には100シグを渡し······等々、通せんぼする人々に対応し続け、ぼろっちい教会の孤児院にたどり着いた。


 そこのシスターが涙ながらに、お金が無いので子供たちが飢えている、と語りだしたので1万シグの寄付をした。


 すると感激したシスターが、「せめてものお礼に······」と目的の青いチャイナローズの花をくれるのであった。ここまでがゲームの流れそのままである。


「よし、目的達成」と振り返ると、なぜか目をうるうるさせながら、こちらも感激した様子のエリーと目があった。


「ルイちゃん······なんて心優しい子なの」


「いや、ただのクエストだから」


「またまたぁ、謙遜しなくてもいいのにぃ」


 とニヤニヤしながら言ってくるので、もう放っておくしかないね。


 帰り道にまた通行料をせびられたので「甘えてないで働け!」とゲンコツをプレゼントしてやった。クエストが終われば俺はこんなもんだ。別に慈悲深くもなんともない。自分と、せいぜいが仲間の事位しか考えない男だ。


 


 さて、ホウツイの街でやらなきゃいけない事も終わったので、いよいよエリーの強化を開始するとしよう。


「エリー、ステータス見せてもらってもいい?」


「良いですよ、どうぞ」


 ――――――――――――――――――――――――――――

 

名前∶エリー

性別∶女

年齢∶16歳

職業∶吟遊詩人

レベル∶11


HP∶83

MP∶77

  

力  ∶19

体力 ∶25

素早さ∶26

器用 ∶43

知性 ∶32

精神 ∶32

運  ∶11

 

装備

 右手∶=たてごと

 左手∶=なし

 頭∶=羽飾りの帽子 物防+7魔防+3

 体∶=革のドレス 物防+10

 足∶=革のブーツ 物防+8

 アクセサリー①∶なし

 アクセサリー②∶なし


スキル∶すばやさの歌、ちからの歌


 ――――――――――――――――――――――――――――


 吟遊詩人はレベルが1上がるごとに、力1〜2、体力1〜3、素早さ1〜3、器用3〜4、知性2〜3、精神2〜3上がる。エリーのステータスはほぼ平均値通りだな。順調にすばやさとちからの歌も覚えているな。この二つの歌も、実は優秀なんだ。


 おっ! 運が11もある!


「エリー、運が11もあるんだけど······」


「ご、ごめんなさい。私、子供の時から運が悪くって······少しでも運が良くなりたくてレベルが上った時に全部運にポイントを入れちゃったんです。この間アイス君にも怒られちゃって······」


「謝る必要なんかないって! むしろ大正解! 今後もレベルが上がったら全部運にいれるんだ。俺もそうしてるよ。なぜなら······」


 ステータスの振れ幅の仕組みや、運の影響する要素をエリーに教えてあげた後、おもむろに運のタケノコを二本取り出し、エリーにも食べてもらった。これでエリーも確定でステータスの最大値が上がっていく。


 お次は、アイテム『かえるのうた(楽譜)』だ。ゲーム時代に入手出来なくて、公式のデータでしか見たことがなかったけど、多分エリーが使うと······


「わっ! ルイちゃん、『かえるの歌』というスキルを覚えました!」


 よし! 『かえるの歌』は敵全体を高確率で状態異常カエルに変える凄い歌だ。はっきり言って、カエル耐性がない相手にはこれさえ歌っておけば良いぐらい有能なスキルだ。


 あの、惑星を何個も破壊してきた、牛乳ぎにう特戦隊の隊長でさえ、カエル化した後はザコ以下に成り下がった。漫画とゲームの違いはあるが、それぐらい凄い事だと言っておきたい。

 

 カエル状態になった敵は、物理攻撃がとても弱くなり魔法も使えなくなる。この辺りにしてはレベルが高く、素早さの遅い魔法使い系の敵、ゴブリンメイジ、コボルトメイジを中心に狩りまくってエリーをレベリングだ!! 狩り場へゴー!





「♪か〜え〜る〜の〜う〜た〜が〜♪」


 ボワン! ボワン! ミス!


 俺の仕事は、カエル化に失敗した敵から順に始末していけばいいだけの簡単なお仕事だ。エリーもあまりの簡単レベリングに驚愕きょうがくしている。どんどんいくぜ〜!




 

「ゼェー、ゼェー、ゼェー······

 る、ルイぢゃん、も、もうノドがげんがいでず」


 うっとりするような美声を誇っていたエリーの声がおっさん化してしまい、ギブアップしてきた。


 仕方ない、今日の所はこれ位で勘弁しといてやるか。


 たったの十時間で俺のレベルは26に、エリーのレベルは20になった。これならエリーも次のイベントで酷い目にあわずに済むだろう。




 街に戻った俺達は宿屋へと直行したが、一部屋しか空いておらず、クタクタで半分寝ぼけているエリーが「女冒険者同士の相部屋の何が悪いんだ」、と譲らなかったので······そのまま泊まってしまった。

 



 


 


 

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