第56話 ジャイアントワーム

 長いトンネルを抜けるとそこは鍾乳洞だった。


 宝石のようにほのかに青白く発光した鍾乳石が水溜まりに乱反射し、広大な空間を幻想的な世界に染め上げていた。思わずほうっと、ため息が出る美しさだった。


 トンネルでは、あれから数体のジャイアントワームの襲撃にあったが、ブーグリの踊り子グリのスキル『踊り』からの『落盤』コンボで問題なく対処できた。


『勇敢な戦士』のグリの二つ名は伊達ではなかった。トンネルで身動き出来なくさせてからのフルボッコ。ジャイアントワームを倒すのに凄く助かっている。



  

 地下空間の美しさに感動できていたのは僅かな時間のみだった。そこかしこから、ジャジャジャジャという摩擦音が響いてきており、みるみるうちに十数体のジャイアントワームに取り囲まれた。


 トンネルを背に半包囲された俺達は直ちに陣形を組んでジャイアントワームとにらみ合う。


「かえるの歌!」


 隙を付いたエリーの十八番おはこで、まずは三体がカエルへと成り果てた。


 続いてチョコが銀の軌跡を作りながら鍾乳洞の天井付近までジャンプしたかと思うと、体が倍以上に膨れ上がり、敵陣に急降下した!


『チョコどんぴょん』(命名俺)だ!


 敵全体に地震攻撃プラス、スタンの状態異常を付与する『チョコ・ザ・クイーン』になってから覚えた新スキルだ。『チョコ・ザ・クイーン』自体が新発見の進化である為、ゲームでは誰も知ることの無かったスキルである。


 動けなくなったジャイアントワーム相手にイーリアスがHPを犠牲にして『暗黒』を使い、敵全体に大ダメージを与える! 更に卒なく『暗の剣』で攻撃し、HPを吸収する事も忘れない。イーリアス必殺の無限コンボだ。


 ザックがこれまた黒い軌跡を描いて天井付近まで舞い上がると、螺旋状に高速回転し、飛翔しながらジャイアントワームにくちばしから突っ込んだ。貫通攻撃の『チョコリュードライバー』だ!


 三体のジャイアントワームを光のエフェクトへと変えた。


 ようやく動き出したジャイアントワームにグリのスキル『踊り』による地形攻撃『鍾乳石』が乱れ飛ぶ! ダメージの蓄積したジャイアントワームが何体か光のエフェクトを残して消滅していく。


 ジャイアントワームの口から石の礫を吐き出す遠距離攻撃がエリーに向かうが、エリーの護衛をしている俺がそうはさせない。


「真空把!」


 三体が吐き出した大量の石の礫を、一つも漏らすことなく全てジャイアントワームに弾き返した!


 ここでも光のエフェクトへと変わり消えていくジャイアントワーム。


 その後も危うげなく戦いは続き、俺達の事を包囲していたジャイアントワームは一掃された。


 最後の光のエフェクトが収まると、辺りは静けさを取り戻し、再び幻想的な鍾乳洞の世界がやってくる。

 

「やったか?」


「やったな!」


 イーリアスと俺がフラグを立て合いながら仲間達の健闘をたたえ合う。


 思えば遠くに来たものだ。最初は素手で殴るしか攻撃手段が無かったというのに、今では見事なパーティー連携で多彩な攻撃である。


 皆ありがとね。俺についてきてくれて。


 おっと、感動でしんみりしている間に、ズズズっとこれまでよりも大きな音が近づいてきた。ボスのお出ましか。


 一周り大きな個体が鍾乳洞に現れた。更に「ピエーーーー」と耳障りな音を発すると、ボスの後方から大量のジャイアントワームが這う地響きが聞こえてきた。


 ボスジャイアントワームは仲間を呼んだ!


 みるみるうちにボスワームに絡み付き、一体の巨大なワームとなった。もはやこれはワームドラゴンだ!


 残機が大量に有るワームドラゴンとの戦いは熾烈なものとなった。 


 戦闘開幕でエリーがインベントリから『聖水』と『ダークマター』を取り出して『調合』スキルで新たな薬を創り出す!


「失敗薬①!」


『失敗薬①』は必中で毒状態にする薬だ。本体であるボスワームには効かないだろうが、絡み付いているジャイアントワーム達には必中で効くはずだ。毒で時間経過とともに少しずつ体力を奪っていく。長期戦にはもってこいの戦術だ。


 いくつも『失敗薬①』を創り出し、フラスコを投げ付けて毒の薬を浴びせる。


 イーリアスも無限コンボの連打をし、表面のジャイアントワームを削り取る!


 エリーを乗せたチョコ、グリを乗せたザックもチョコメットを連発してダメージを与え続け、グリは器用にザックの上で踊りを踊っている。鍾乳石が乱舞してワームドラゴンに襲いかかる!


 ワームドラゴンの巨大な口が大きく開かれた!


 まずい! ブレスだ!


 ドゴゴゴゴッと猛烈な勢いで土石流のようなブレスが吐き出された!


 流石にこれは弾き返せない!


「みんな避けろ!」


 素早さに自信がある俺、イーリアス、チョコ、ザックと無事に土石流のようなブレスを避けることに成功した。


 その後も戦闘は長く続き、俺の怒涛の八回連続パンチを何度繰り出したか分からなくなる頃に、ようやくワームドラゴンが痩せてきた。とは言っても最初に比べれば、であるが。


 だがここまでくれば俺のスキルもボスに通るだろう。


「ホークト流○○拳!」

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