第55話 ブーグリの洞窟

「大変ポク〜! 空からよそ者が現れたポク! ポックン達食べられちゃうポク〜!?」


 なぜ初対面で食べられると思ってしまうのか、ブーグリよ。


「安心してくれ。俺達はブーグリを食べたり、いじめたりはしない!」


「良かったポク~! 安心したポク~!」


 そしてちょろい。


 そんなに簡単に人を信じて大丈夫なのかと、逆に心配になるレベルだ。ブーグリが善良で心優しい種族というのは、この世界でも同じようだな。これならクエストも大丈夫かな。


「俺の名前はルイ。こっちにいるのは俺の仲間のエリーとイーリアス。そしてチョコザのチョコとザックだよ」


「ポックンの名前は『グリ』ポク。珍しいチョコザがいるポク~! チョコザはポックン大好きポクッ!」


「「ぷえ~!」」


 大好きと言われて喜んでいるチョコとザック。やはり現実となったこの世界でも、チョコザとブーグリは仲が良いのかな?

 

「グリ、俺達は洞窟の中に入れてもらいたいんだけど入っても良いかな?」


「それは駄目ポク。族長の父ちゃまから誰も入れるなと言われているポク。ポックンはブーグリの勇敢な戦士ポク。誰も通さないポク!」


「そこをなんとかお願いできないかな?」


「どうしてもって言うなら、ポックンが喜ぶ珍しいお土産を持ってくるポク~! そうしたら族長に聞いてあげても良いポクよ」


 よし! クエストゲットだぜ!


 ゲームではユンチカン国中を聞いて回って、ようやくブーグリが欲しがる物を知ることができるのだが、俺はゲーム知識で知っている。


 インベントリから『かえらずの森』でレベル上げをしながら採取していた『ポクの実』を取り出す。


「これでどうかな?」


「あっ! 『ポクの実』ポク〜! 本物かどうか確かめるポク!」


 そう言って俺から受け取った二十個程あったポクの実を、半分食べてしまった。


「本物みたいポク! これを許婚の『グラヨ』ちゃんにプレゼントしてアピールするポク!」


「気に入ってくれたみたいだね。中に入れてもらって良いかな?」


「う~ん、グラヨちゃんにアピールするにはこれだけじゃ足りないポク。ポックンの勇敢さをアピールできる物も欲しいポク!」


 その言葉を待ち構えていた俺は、インベントリから死霊魔王城で手に入れていた物を素早く取り出しつつグリに言う。

 

「それじゃあ、この『ルーンの鐘』でどうかな?」


「あっ! 珍しいベルポク〜! ベルはポックン達ブーグリの踊りの効果を高めてくれるからとても嬉しいポク〜! 族長に聞いてきてあげるポク!」


 そう言ってグリはふわふわと飛んで洞窟の奥へと消えていってしまった。


 門番なのにな。


 いなくなっちゃいかんだろ。 


 因みにこの時に勝手に中に入ると、ブーグリに嫌われてしまい適応桃は手に入らなくなる。


 ジ・エンドだ。


 おとなしく洞窟の入口で待っていると、グリが仲間を連れて戻ってきた。


「族長に許してもらったポク! ついてくるポク〜」


 グリが仲間と門番を交代して、俺達を洞窟の奥へと案内してくれる。奥へと進んで行くと広場のような所へと出た。グリが一人? 一匹? のブーグリに話しかける。


「族長、この人達ポク」


「外の世界の人間がなんの用事ポクか?」


「魔王軍を倒す為に『適応桃てきおうとう』をいくつか譲って欲しいんです」


 俺が訪れた理由を話すと、ブーグリの族長が細い目をさらに細めて困ったように唸る。


「うーむ、魔王軍が活発になってから、モンスターも活発になってきて儂らブーグリも困ってるポク。でも今は譲ってあげられないポク」


「どうしてですか?」


「沢山あった適応桃の木が『ジャイアントワーム』に食べられて困っているポク。大事な木が残り少なくなってしまったポク。やっつけてもやっつけても何度でもやってくるので奴らの巣に乗り込んで退治してきて欲しいポク」


「わかりました。退治してきたら適応桃をいただけますか?」


「約束しようポク。ブーグリは裏切らないポクよ。グリを連れて行って欲しいポク。そろそろ結婚して欲しいから、村一番の勇敢なブーグリであると証明してきてもらいたいポク」


「わかりました。それじゃあグリ、一緒に行こう!」


「グラヨちゃんの為に頑張るポク〜!」


 ブーグリのグリが仲間に加わった!




 グリと共に適応桃の近くに掘られた穴を延々と進んで行く。穴の大きさは直径が三メートル程とかなりでかい。これがジャイアントワームの口の大きさかと思うと、嫌になるな。


 結構な距離を進んで行くと前方からジャジャジャジャという摩擦音が響いてきた。


「あっ! ジャイアントワームが来るポク! ポックンに任せるポク〜!」


 グリが踊りだすと丁度グワッと飛びかかってきたジャイアントワームの口の少し後ろ辺りに巨大な石が落ちてきてジャイアントワームを潰し動けなくした。


 ブーグリの種族特性による『踊り』の『落盤』攻撃だ!


 げえ! ジャイアントワームの顔というか口? ギザギザ歯のようなものが螺旋状に並んでいて、かなりキモいな。


 イーリアスがお構い無しに破邪の剣でジャイアントワームを斬りつける!


 おっと、キモくて出遅れた!


 動きを封じられたかと思われたジャイアントワームが口から石のつぶてを何個も吐き出してきた! 


「ホークト流真空把しんくうは!」


 俺は新スキル『真空把』を使い飛んできた礫を全てジャイアントワームに跳ね返した!


『真空把』は物理を伴う魔法や弓などの遠距離攻撃をこちらはノーダメージにて相手に全て叩き返すというカウンタースキルだ。


 隙のできたジャイアントワームの口を、イーリアスと共に殴る斬るとフルボッコにすると、「カシャーン」と硬質なガラスが繊細に砕けるような澄んだ音をたてて、ジャイアントワームが光のエフェクトと共に消えていった。

  

 一体目は難なく倒したが、こういうキモい顔の奴らが沢山うごめいている所に乗り込むかと思うとちょっと嫌になるな。


 グリの『落盤』攻撃で、トンネルはどうなってしまうのかと心配になったが、トンネルにはなんのダメージも無いようだった。


 不思議だ。


 だが、いちいち驚いていても仕方がない。

 これが剣と魔法のゲーム世界なのだから。


 俺達はジャイアントワームの巣の根絶の為、先へと進む。

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