第91話 自爆

 イーリアスがくるりと向きを変え、魔剣を構えると俺と相対した。


「ぐがが、よ、よけろルイ!」


 ガガガガッ!


 イーリアスの斬撃と俺の拳が激しく打ち合う!


「さて、イーリアスと我の二人で制圧して聖竜王の遺児シーラはもらっていくぞ」


 イーリアスの洗練された剣がひらめき、次々と俺に襲いかかってきた!


 ミスドジードは暗黒パワーをマシンガンのように打ち出し、後衛のエリー達に攻撃している!


 俺とチョコ、ザック、エリー、シーラは暗黒師弟二人の攻撃に必死に耐える。


「ル、ルイ。すまん。くっ、殺してくれ」

  

「イーリアス! しっかりしろ! お前なら操りを跳ね除けられる!」


 暗黒パワー同士の対決の場合、その優劣は主に単純な力の大きさの綱引きとなる。

 

「ぐむ、むぅ。ち、父上の、教えを……」


 イーリアスの暗黒パワーが、可視化する程に凝縮されていく。


「うおぉ!」


 ぶちぶちと黒い操りの糸を引き千切り、イーリアスがくるりと向きを変えて再びミスドジードに切りかかった!


「なんだと!?」

 

 今だ!


 俺も一気にミスドジードに肉薄し、右脇腹にオーラパンチを叩き込む! 左右からの挟み撃ちだ!


 ドガッ!


 イーリアスの斬撃と、俺の四連撃の内三つはガードされたが、一発はミスドジードの脇腹にめり込んだ!


 オーラパンチがジュウジュウとミスドジードの闇を削り取る! 更に追撃を入れようしたが、ミスドジードの闇が爆発的に膨れ上がり、弾き飛ばされてしまった!


「ぐぅ! おのれ、死天王を倒しただけの事はある。だがまだまだよ! 『極・躁魔傀儡掌ごく・そうまくぐつしょう』!」


 再びイーリアスを極太の黒い操り糸が絡め取る!


「うおぉ!」


 イーリアスも激しく凝縮させた暗黒パワーを使って抵抗する!


 一歩また一歩とミスドジードに、にじり寄っていくイーリアス。


 ミスドジードとイーリアス、二人の暗黒パワーは 猛烈な密度でドームの様に膨れ上がり、俺でさえも近づく事ができない!


 イーリアスが遂にミスドジードの腕を掴める位に接近した。

  

「ル、ルイ、みんな……すまん私はここまでのようだ」

 

 お互いに暗黒パワーの綱引きの最中で動きが鈍い中、ゆっくりとした動作でイーリアスがミスドジードにしがみついていく。 


「も、もうすぐ私の暗黒パワーは尽きてしまう。そうしたら完全に操られて、皆を斬ってまわる事になる」


「貴様、ここまで暗黒パワーの放出に全力を使っていながら、なぜそこまで動ける!?」


「そ、そうなる前にミスドジードは私の命に変えても、始末しておく。皆、今すぐ逃げてくれ!」


 イーリアスの体から湧き上がる暗黒パワーが、ミスドジードの暗黒パワーを取り込みながらイーリアスの体に吸い込まれていく!


「貴様、まさか暗黒パワーを暴走させて自爆するつもりか!?」


「皆、さらばだ! 母上には暗黒騎士としてりっぱに本懐を遂げたと伝えてくれ!」


「ファファファ! そうかそうか、手間が省ける。イーリアスよ! ならばもっと暗黒パワーを注ぎ込んでやろう! 逃げる間などなく、皆まとめて死ね!」


「逃がすと思うか?」


 イーリアスが、さらなる暗黒パワーの奔流を必死に吸収しながら、ミスドジードをがっしりと掴む!

 

「ファファファ。逃げられぬと思うか? シーラの死骸は後で回収に来てやろう! さらばだ」


 更に暗黒パワーをイーリアスに叩き込んで、ミスドジードは現れた時と同様に、怪しく空間を揺らすと、忽然と消えた。


「馬鹿な! 逃げられるとは!? もう暗黒パワーの暴走は抑えきれない! 早く! 早くみんな逃げてくれ!」


 荒れ狂う暗黒パワーを暴走させて、最後の輝きを放つイーリアス!

 

「エリー!」


「かえるの歌!」


 ボワン!


 イーリアスは『自爆』した!


 しかし効果が無かった!


「ゲコッ!」




 

 状態異常『カエル』になると、アイテムの使用はおろか、あらゆる特殊攻撃は封じられ、弱体化した通常攻撃しかできなくなるのだ。


 あれほど荒れ狂っていたイーリアスの暗黒パワーも、完全に消滅している。


 もう大丈夫かな?


 アイテム『おとめのチッス』を使い、イーリアスの状態異常『カエル』を解除する。


 人間に戻ったイーリアスが、あまりの出来事に口をパクパクさせて驚愕きょうがくしている。


「ゲコッ……ん、ん。なにが、いったいなにが起こったのだ?」

 

「暴走させた荒れ狂う暗黒パワーをも制御して、一瞬でいだ水面の様に落ち着かせる。完全な暗黒パワーの制御、それが出来るのがスキル『暗黒の極み』らしいよ。今の感覚を覚えといて」


 と、『ファンサ5』のゲームの中でイーリアスが説明してくれていた。

 

 こくこく、と頷くイーリアス。


「すまんが状況を説明してくれないか?」


「ミスドジードがまた戻って来たら厄介だから、飛空艇ミューズ号に帰りながら話そうか」


 パーティー全員で暗黒騎士の修行場から引きあげながら皆に説明をする。


「『敵を騙すにはまず味方から』っていってね、怒らないで聴いてほしいんだけど。この修行場では、シャドーというボスに襲われて、イーリアスが必ず自爆してパーティーが全滅するっていうイベントなんだよ」


 ゲームでは何度完璧にシャドーを倒しても、必ず最後は自爆エンドで全滅してしまう、クリア不能イベントとして有名だった。しかし、ある日先達が攻略法を見つけ出したのだ。


 それが『ぎ取りカエル』作戦。


 あらかじめ、最強装備の一角である平氏装備を外してからボス戦に挑む。イーリアスは全状態異常無効だが、俺と同じく、それはキャラの力ではなく平氏装備の効果だ。


 カエル化無効等に対応したを外してしまうと、海底神殿でイソギンチャクに麻痺させられていたように、状態異常『マヒ』や『カエル』が効いてしまうのだ。


 そしてカエルは戦闘コマンドが通常攻撃の『たたかう』以外使用禁止になる状態異常だ。カエルになる前に入力していたとしても、全てのコマンドはキャンセルされて『たたかう』のである。


 それをうまく利用した『ぎ取りカエル』作戦でイーリアスの自爆を無効化して、晴れてスキル『暗黒の極み』をゲットできるというわけだ。


「……というわけなんだよ。でもまさかゲームでの『シャドー』が魔王軍の大幹部『魔軍司令ミスドジード』とは思わなかったから、凄く焦ったよ」


 俺が意気揚々とタネ明かしをして、飛空艇ミューズ号に乗り込んで皆の顔を見ると、なぜか皆の視線がとても冷ややかだった。


「ルイちゃん……そういう大事な事はもっと事前に説明してくれないと」


「いや、だからさ『敵を騙すにはまず味方から』っていうでしょ、言いたくても言えなかったんだよ!」


 なんだか怒られそうだから、皆にも驚きをもってこのイベントをクリアしてもらいたかった、という俺の本心は内緒である。最初からネタバレするとつまらなくならない?


「さ、さあ、準備が全部整ったからマーダ神殿に転職しに行こうか!」


 飛空艇ミューズ号は大空へと飛びたった。

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