第二章 火の大輝石

第90話 シャドー

 海月魔王クラーゲンを撃破し、水の大輝石を解放した俺達ルイパーティーの乗る飛空艇ミューズ号は、再び暗黒騎士の隠れ里フォルバガードを目指して西へと向かった。


 海底神殿の戦いで、イーリアスのレベルがカンストしたのでいよいよ転職なのだが、一手間かけて転職イベントの下準備をしなければならないのだ。


 イーリアスの暗黒騎士ダークナイトというジョブは、マーダ神殿の山頂での試練を乗り越えると、唯一聖騎士ホーリーナイト転職ジョブチェンジする事ができる。聖と闇二つの属性を操る事が出来るようになる為イーリアスも転職に乗り気だ。


 ただ、暗黒騎士レベル99になってから更に修行する事で体得する『暗黒の極み』というパッシブスキルを覚えてから転職しないと、聖騎士の聖属性と反発して暗黒騎士のスキルが使えなくなってしまうのだ。


 聖騎士に転職後も『暗の剣』を始めとした各種の暗黒騎士スキルを発動する為には『暗黒の極み』は必須スキルとなる。暗黒騎士の里で修行をする事により、イーリアス無双化計画としての転職準備は完了する。


 その修行とは、最奥に現れるボスを倒す事なのだが、この修行場に現れるボスがとても厄介な奴なのだ。ゲーム時代には初見ではクリアできず、全滅してしまうプレイヤーが続出していた程だ。


 だから前もってエリーにとある指示を出しておくことにする。


「エリー、ちょっといい? これから行く洞窟で……………………」


「えっ!? そんな事して良いの?」


「そうしないと守れないんだよ。だからその時が来たら迷わずやってくれ」


「うーん、まあルイちゃんの言うことなら信じるしかないか……」



 


 飛空艇ミューズ号は、無事に隠れ里の西側にある暗黒騎士の修行場にたどり着いた。


「イーリアスは隠れ里の修行場に行った事ある?」


「いや、私は里にいる時はまだ幼かったので行ったことがない」


「そっか、ここの敵は暗黒騎士の修行場に選ばれるくらいだから、普通の物理攻撃を加えると増殖するんだよね。だから海底神殿の時と同じくイーリアスの魔剣とシーラ達の魔法が頼りになる」


「む、そうなのか。では攻撃は任せてくれ。ルイは皆の盾となってくれるか」


「防御は任せてくれ! それでさ、ここの敵は風魔法と雷魔法を頻繁ひんぱんに使って来るんだよね。だからイーリアスにはこの『風雷神の胸当て』を装備してもらいたいんだ」


 俺はインベントリから『風雷神の胸当て』を取り出してイーリアスに渡した。

 

「これはね、『神シリーズ』って言って、それぞれの大輝石の部屋にある宝箱から入手できる、世界に一つだけのものなんだ。それぞれ単品でも結構強い防具なんだけど、四つ全部揃うと最高の防具に生まれ変わらせることもできるんだ!」 

 

「それは凄いな!」


「でも今は単品だから平氏の鎧よりは弱いけど、名前の通り風と雷属性を吸収してくれるから、ここでの前衛にはうってつけの装備って理由わけなんだよ」


「わかった。ではありがたく使わせてもらおう」


「ルイちゃん、じゃあ『水神の胸当て』は……」


「水属性吸収だよ」


「やった! 次からは私、水属性吸収したい時の装備は、水着じゃなくてこの胸当てにする! 良いよね!?」


 エリーが俺より背が高いのに上目づかいで俺におねだりするという器用な事をやってきた。


 そんなに可愛く言われてしまっては返事はもちろん「良いよ」だよね。さらし&ふんどしも、アブナイ水着も永久欠番か……残念。




 修行場に入ってからは、特に苦も無く増殖モンスター達を駆逐していった。まぁそりゃあそうだ。海底神殿をクリアした今の俺達からしてみれば、増殖モンスターは増殖にさえ気を付ければ普通の雑魚モンスターと変わらない。


 敵モンスターの攻撃も、思った通り風と雷系ばかりなので、ワントップのイーリアスに面白いように集中して逆にHPを回復してくれている。


 あっという間に宝箱も回収しつつ、修行場の最奥にたどり着いてしまった。台座の上にイーリアスに座ってもらい、目を閉じて集中してもらう。


「イーリアスはそこで、暗黒パワーと向き合って自分の衝動をコントロール出来るようになってくれ。それが暗黒騎士としての最後の修行だ」


「わかった。見事やり遂げよう」




 イーリアスの修行が始まってから数時間が経過した。 


 突然イーリアスの奥の空間が怪しく揺れた。


 ボスがきたか!?


「何者だ!」


 感覚を研ぎ澄ませていたイーリアスが、すぐさま魔剣フォルバガードを構えて怪しい影と相対する。


「久しぶりだなイーリアスよ。負のエネルギーの波動を追って随分と探したぞ」 


「貴様……ミスドジードか!?」


 ミスドジードだと!?


 イーリアスが言っていた魔軍司令か!? ここで出てくるボスモンスターは『シャドー』じゃなかったのか!?

 

「その通りだ。こうして会うのはわれが負のエネルギーの操作を教えた時以来だが、随分と扱えるエネルギー量が増えたではないか。見違えたぞ」 


「黙れ! お前達魔王軍には母上の事で随分と世話になったな! ミスドジード! 直接お前と呪いをかけた大魔王デスジードを叩き斬ることを何度夢に見たことか!」


「ファファファ、お前には負のエネルギー操作の師である我を斬ることなど不可能だ。何より大魔王デスジード様を斬るとは不敬である! 死ね!」


 ガガッ!


 ミスドジードの暗黒パワーを束ねた手刀とイーリアスの魔剣フォルバガードが激しく衝突した!


 俺達も黙ってみてはいられない。


「皆、全員で倒すぞ!」


 俺の合図と共にシーラとチョコザの魔法がミスドジードに激突したが、両手の手刀で難なく魔法を払い飛ばした!


 その隙をついて突撃する!

 お前の弱点は正のエネルギーを凝縮した、俺のオーラパンチだっていうのは知っているんだぞ!


「オラオラオラオラ!」


 ドガガガ!


 くっ! しっかりと受け止められてしまった!

 手強い!

  

「ファファファ! 多勢に無勢では分が悪いな。我も仲間を増やすとしよう。『躁魔傀儡掌そうまくぐつしょう』!」


 ミスドジードから伸びた暗黒パワーが無数の黒い糸となって、イーリアスを覆った!


 魔剣で糸を切り裂くイーリアス!

 だがすり抜けた糸が次々にイーリアスに取り付いた!


 イーリアスがくるりと向きを変え、魔剣を構えると俺と相対した。


「ぐがが、よ、よけろルイ!」


 ガガガガッ!


 イーリアスの斬撃と俺の拳が激しく打ち合う!


「さて、イーリアスと我の二人で制圧して聖竜王の遺児シーラはもらっていくぞ」

 

「イーリアス! しっかりしろ! お前なら操りを跳ね除けられる!」

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