第93話 火の国

 マーダ神殿でのイーリアスの転職が無事に終わり、イーリアスは見事に聖騎士ホーリーナイトになる事ができた。


 レベルが上がれば有用な聖剣技を次々に覚えてくれるので、ますますイーリアスの戦闘面での価値が上がった。しっかりと聖属性の力を上げておけば、次に魔軍司令ミスドジードと相対しても、操られる可能性は低いはずだ。


 むっふっふっふ、憧れだったイーリアスのリアル育成は楽しいなぁ。


 早速レベル上げを兼ねて、火の大輝石のある火の国へ行こう。火属性攻撃に耐性があったり、吸収できる装備も手に入れなきゃいけないしな。



 

 前回の転職の時と同じく、マーダ神殿から飛空艇ミューズ号へと戻る途中の暴走チョコザのひき逃げアタックで、早くもイーリアスのレベルは11となった。


 この調子で行けば、倒す相手とのレベル差があるから経験値が多く入るし、イーリアスの転職後の低レベル帯はすぐに抜けられるだろう。





 マーダ神殿から飛空艇で進路を北北西にとれば、そう長く飛ぶことも無くクス島にある火の国クマーソへと着くことができる。


 火の国クマーソは和風文化の国なので、なんと! 懐かしの和食が食べられるのだ! 


 ゲームが現実になった事で、この世界にも和風の国があるという事がこんなにも嬉しく感じるなんて思わなかった。


 そしてクマーソは獣人と一般人種が共存共栄している国なので、みんな大好き、もふもふの国でもあるのだ。


 全身毛玉の人から、ケモみみ・ケモしっぽだけの人達、それからつるつるの一般人種といろんなグラデーションのある楽しい国なのだ。因みに、この国の王様はクマンモ八世というクマの獣人さんだ。


 早速火の国クマーソのフゲンの街で料理屋に入って食事だ。ウサギ獣人の着物姿の看板娘に天ぷら定食をみんなで注文し、どうしても俺が食べたかった寿司の盛り合わせを追加で頼む。


 生の魚を食べるというのは、この世界でもクマーソ以外ではあまりないらしい。エリーとイーリアスとカサンドラは最初は刺身の部分を敬遠していたが、俺とシーラが美味いを連呼して食べていたら、興味を引かれたみたいで恐る恐る三人も食べた。


「んん~! ホントだ! 美味しい! このお寿司っていうの美味しいよ、ルイちゃん!」


「やはりなんでもチャレンジしてみるものだな! 私は大トロとイカが好みだ!」


「とても美味しいでふね! んぐ! 年甲斐もなくほおばり過ぎちゃいました。生のお魚がこんなにも美味しいだなんて知らなかったわ!」

 

 食べてみると、やはり脂ののった刺身の旨さは世界を越えて万国共通のようだ。驚いた顔をして三人もマグロ、大トロ、ブリ、サーモン、タイ、サンマ、イカ、ウニと次々に寿司を食べていった。ちゃんと醤油もあるので、醤油とお好みでワサビを付けて食べた。


 シーラはその生い立ちのせいで、可哀想なことにそもそもの記憶が無いので、生魚の先入観など無く最初からとろける笑顔でおいしいおいしいと寿司を食べていた。これから、もっともっと旨いものを一緒に食べような!


 次は、天ぷら。うん、やはり天ぷらは文句無しに美味い!


 プリップリの海老は言うまでもなく美味いし、きすは白身がしっとりホロホロとして美味い。とりもも肉は噛み締めた時に溢れ出す肉汁にノックアウトされた。


 なす、かぼちゃ、しいたけ、ししとう、さつまいも等の野菜も熱で野菜の甘みと旨みが引き出されつつ凝縮されていて、口の中で『うまい』が大爆発だ!


 ありがたい事に、ちゃんと天つゆも大根おろし入りで再現されている。こちらもお好みで塩でも美味しかった。


 俺は今、もうれつに後悔している。転生してからここまで、必要な事をやりに必要な順番で無駄なく世界を回ってきたが、飛空艇を手に入れたならば、まず真っ先にクマーソ国に食道楽に来るべきではなかったかと。

 

 前も思ったがこの世界がメシマズの世界じゃなくて本当に良かった! やはり、うまいものを食うと元気が湧き出る! そしてリアルバニーガールを実際に見てしまうと、その可愛らしさに心が浮き立つ! なんて魅力的な国なんだクマーソ国は!


 おっと、バニーガールを見てしまっていたらエリーの視線が厳しくなったか? と思ったが、これはきっとエリーもモフりたいんだな。気持ちはわかる。俺ももふもふしたい。



 

 食事が終わると街から少し西に進み、いつもの戦闘パーティーでフゲン山の中腹にあるダンジョンに向かった。ここでお目当ての火属性吸収装備『炎のリング』を手に入れるのだ。


 ここの敵は今の俺達からすると雑魚同然だから、まだ低レベルのイーリアスを皆で守りながらでも、難なく進んで行けている。イーリアスのレベルは順調にメキメキと上がり続けていた。


 しかし困った事に、ここまで通ってきたダンジョンの宝箱は全て空になっていた。どうやら俺たちより先にダンジョン探索にやって来た人がいたようだ。


 せめて一番の目的である、炎のリングだけでも回収したい。


 奥の隠し部屋にぽつんと置いてある宝箱を見て、シーラが叫び声を上げた!


「ルイお姉ちゃんみて! じゅうじんの国の宝箱は、宝箱にまで『しっぽ』がはえているよ!」


 なにぃ!?


 ほ、本当だ!?

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