第36話 逆侵攻
前線基地の街ゴジョオンの中を、チョコザに乗って急いでロングブリッジの方へと駆ける。
ロングブリッジ側の門にたどり着くと、外ではすでにアンデッドモンスターが大量に蠢いている気配がする。城壁を護るマリンバード王国の兵士や、冒険者達が、弓や、魔法、遠距離攻撃のスキル等で城壁の上から応戦していた。
俺達も城壁の上へと移動し、現状の把握をするが、こちらの守備数に対して敵の数が多すぎる。しかも敵はアンデッドなので痛みも恐れも感じなければ、疲れもしない。
ロングブリッジ側に集中している敵が、最初の隔壁を越えてゴジョオンを取り囲むように全方位へ散らばって攻撃してきたら、もう防ぎようが無くなるだろう。
ロングブリッジの上には魔王城からこちらまで、様々なアンデッドがひしめきあっている。
むしめがねを使って調べてみたところ、敵のレベル、味方のレベルに比べて俺達パーティーのレベルは突出していた。
このまま城壁の上で待ち構えていても、中距離までしか攻撃手段の無い俺とイーリアスの戦力を活かしきれない。となるとやる事は一つしかないな。
「エリー、イーリアス、チョコ、ザック聞いてくれ。このままだと、いずれ全周を取り囲まれて、城壁の中に攻め込まれるだろう。それでも、レベルが高い俺達は死なないだろうが、そうなった場合犠牲者が大勢出る」
エリーがぎゅっと手を握りしめて俺を見てくる。過去の事が、頭をよぎっているのだろう。意思のこもった目をして口を開いた。
「ルイちゃん、なんとかなりませんか」
「なんとかする方法はたった一つ。無謀だと思うかもしれないが、敵味方の中でもレベルの突出した俺達のパーティーだけでロングブリッジを逆侵攻する。少なくとも橋の上でパーティーで防衛線を構築すれば、取りこぼしは出たとしてもゴジョオンの被害は少ないだろう」
「私達だけで······兵士や冒険者の方を連れて行くのは?」
「多分、守ってあげなきゃいけない状況になるから、かえって状況は悪化すると思う。だから俺達のパーティーだけの方が良い」
「······わかりました。やりましょう!」
「イーリアスもそれでいいか?」
「私は元々一対多数の相手が得意だ。······母上が石にされて以来ずっと一人だったからな。近距離でなければ力を活かせないし、それで構わないぞ」
ここに来てまさかの哀しいカミングアウト。まあイーリアスの状況では仕方ないか。
「チョコとザックも良いかな?」
「「ぷえ〜!!」」
よし、話はまとまったから、守備兵の皆さんに頑張ってもらえるように発破をかけてから行きますか!
腹の底から声を出し大音声で告げる。
「皆聞いてくれ! 俺達はライート教会の聖女エリーの率いるパーティーだ! この状況を打開するために、今から俺達のパーティーでロングブリッジを逆侵攻して橋の上で防衛戦を築く! 当然打ち漏らしはでるだろうから、街の護りは引き続き頑張ってくれ!」
俺の声を聞いた兵士や冒険者がざわめき立った。
「おお、あのヴィクトリア聖国の聖都セイダードの!」
「今ここに来ておられるとは、なんという奇跡!」
「うおー! やるぞー!」
よしよし、盛り上がってきたね。それじゃあハデに行きますか!
「エリー、ここから飛び降りるから、着地地点の確保をレクイエムでお願い」
振り返ってエリーの方を見ると、少しむくれているようだ。仕方ないのよ、士気は大事だからね。
「レクイエム!」
エリーの慈愛の歌が響き渡ったかと思うと、城壁前のアンデッドが一掃された。
「チョコはエリーを乗せたままで付いてきてくれ! 俺とイーリアスはそれぞれ自分で飛ぶ! 行くぞ!」
城壁から華麗なる着地を決め、そのまま猛然とロングブリッジへと走り出す俺とイーリアス。
うお〜!
イーリアスと並んで突入するなんてムネアツだな!
それだけでテンション爆上がりだぜ!
ちらりとイーリアスを見ると、鬼面越しなのでわからないはずなのに、彼女も笑っているだろう事が伝わってくる。
『けり』を放って、先制攻撃で何体ものアンデッドをなぎ倒した後に、当たるを幸いに次々と殴り倒していく。
イーリアスはと見てみれば、全く危うげなく破邪の剣で次から次へと撫で斬りにしている。例のあの
後方からはエリーのレクイエムや、おりをみての、ちからの歌、すばやさの歌の援護が入ってくる。なんて頼もしいんだエリー!
もう一人で千体以上倒したはずなのに、一向に数が減らない気がする。ジャイアントタートル戦を乗り越えた俺達ならやれると思っていたんだが、次から次へと湧いてくる相手との戦いというのは、また違う疲労を感じるな。
俺が内心で愚痴っていると、ゴジョオンの城壁の方から、凛と澄んだ詠唱の声が聞こえてきた。だいぶ遠いはずなのに不思議だ。
「母上!」
あり!? カサンドラか?
「大地の上のあらゆる生命よ、我が命ずる星の導きによりその運命を決定せよ! 『星運停止』」
空から眩い光がアンデッド達に降り注いだかと思うと、大半のアンデッドがピタリと動きを止めた。
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