第27話 勇者パーティー壊滅 (ざまぁ回)

「ふざけているのはお前のほうだ! エリーはお前達のパーティーから役立たずだって追放されたんだろうが!」


 自分のやってきた事なのに、何を勘違いしたのか、おかしな事を言って難癖を付けてくる勇者アイスに、俺が間違いのない事実を突き付けてやった。


 後ろに庇っていたエリーが、俺を制して前に出てきた。不安も伺えるその横顔。だがそこには、はっきりと力が宿っているのが見て取れた。


「アイス君。君のパーティーにいる間、力不足で足を引っ張っていたのは本当の事です。ごめんなさい。 でもね、全力でサポートしていたんだよ。いつも、いつでも本気だった。手抜きなんかしたことは一度もない!」


「ふざけるな! じゃあ、どうやって俺達と別れてからすぐに、いきなり活躍できるんだよ! どう考えてもおかしいだろうが!」


「それは······ルイちゃんに新しい歌のスキルをもらったの。そのスキルが凄く強力で、そのおかげでたくさんモンスターも倒せて、レベルも一気に上がったんだよ。決して、それまでが手抜きをしていた訳じゃない!」 


「はっ! モンクに、歌のスキルを教えてもらっただと!? そんな話を信じる奴なんかいると思うのか? もういい、とにかく手抜きを謝れ! 今なら心を込めて謝れば許してやる。とっとと謝って俺の所に戻ってこい!」


「力不足だった事ならいくらでも謝るよ。ごめんね。でもね、手抜きをした事は無いからそれは謝れない。それに、今の私があるのはルイちゃんのおかげなの。ルイちゃんとは、心の繋がりのある仲間として、今までも、これからもずっと一緒にやっていくつもりだから、アイス君のところにはもう戻らない」


「なんだと!」


 勇者アイスが激昂して剣の柄に手をかけた。

 やる気か!?


 俺もすぐにエリーを押しのけ、再び前に出て、構える。


「待て! 待ってくれ!」


 いつの間にか出来ていた人垣をかきわけて、いかつい顔のおっさんが俺たちの前に現れた。


「冒険者ギルド、メカイデカ支部ギルドマスターのキッコーだ。 勇者アイス殿とお見受けする。近隣、ならびに国中のモンスターを討伐してまわっていただけていること、ギルドマスターとして誠に感謝致す。貴方も間違いなく我が国の英雄だ」


 キッコーの言葉を聞いて、勇者アイスの怒気がほんの少しではあるが収まったように感じた。


「ルイ、エリー、久しぶりだな、活躍は伝わっているぞ。 どちらも矛を収めてくれ。勇者パーティーと聖女パーティーの争いなど、魔王軍を利するだけで、人族の損失でしかない」 

 

 キッコーはギルドマスターだけあって、まともなことを言うね。俺に異存はない。

  

「俺は、こいつらとは争う気なんかない。むしろ俺達にかかわらないで欲しい」


 俺がそう言うと、勇者アイスが凄い剣幕で怒鳴ってきた。


「お前が最初に俺達のパーティーにちょっかいを出してきたんだろうが!」


「お前達のパーティーにじゃない。すでにお前らに追放されて捨てられたエリーに話しかけただけだ」 


「何を!」


 再び勇者アイスが、剣の柄に手をかけて凄んできた。


 なんだ? やんのか? お? こっちはいつでもいいぞ。俺達と、お前達のレベル差は、はっきりと見えている。俺一人でもお前ら四人、まとめてたたんでやんよ。

  

「まてまて! 待ってくれ! そのままだと本気での殺し合いになりそうだ。どうしても腕ずくで解決したいのなら、訓練場で思う存分語り合ってくれ。ただし、人が死ぬような攻撃はなしだ。俺が立会人を務めさせてもらうぞ」


 しつこく付きまとわれるのも面倒だから、その方が良さそうだな。この機会にどっちが上か、きっちりとやるぜ。


「それで良いよ」

「こっちもそれで良い」


 俺と勇者アイスが返事をして、二つのパーティーがギルド併設の訓練場へと移動する。周りの人垣もばらけて、ぞろぞろと俺達の後をついて来ている。見世物ではないというのに、野次馬根性の大きい奴らだな。


 パーティーの一員ではあるが、今回はチョコとザックは抜きだ。チョコザが加わった事で、また難癖をつけられるとめんどいからな。


「ルイよ! 一対一のレスリングで勝負だ! この勝負に俺が勝ったら結婚してくれ!」


 ブーメランパンツ一丁のままでついてきたゴライアがそう願い出てきた。


 ほう······中々漢らしいセリフじゃないか。

 その一本気、嫌いではないぞ。

 このイケメンマッチョめ。

 その筋肉に免じての勝負には応じてやろう。


「ゴライア。お前の筋肉には日々の努力の成果がたっぷりと詰まっている。きっと真面目な努力家なんだろう。そこは評価ができる。······だが断る!」


「な、なぜだ! お前も筋肉が好きなんだろう? 俺の筋肉からだのどこが不足なんだ!」


「お前達はエリーの事を追放したからだ。仲間を切り捨てるような奴とは結婚する気はない!」


「むぅ······」


「素手での勝負自体は受けてたとうじゃないか。結婚をかけていたとしても無駄だったということを教えてやるよ。さあこい!」


 俺の挑発まがいの発言を合図に、ゴライアがダッシュで接近し、俺の脚にタックルを仕掛けてきた。双手刈もろてがりだ! いきなり寝技にもつれ込む気か!? 二人の仲はそこまで進んでないぞっ! お父さんは許しません!


 ゴライアを上回るスピードで、斜め後ろに素早く避ける。


 どうやら、ゴライアは、武器もスキルも使わずに己の肉体のみで勝負をつけたいみたいだな。良いだろう。俺もスキルは無しだ。


 その場から素早く起き上がりつつの、回転足払いがきた! それを見切ると、敢えて回転するゴライアの脚に被せるように上から踏みつけ動きを止めた。


「どうした。当て身も使わなければ俺に触れることさえ出来ないぞ」 


 その言葉を合図に、立ち上がったゴライアが虚実を織り交ぜたパンチの連打を浴びせかけてきた。それを余裕を持って捌く俺。時折パンチモーションをフェイントにして寝技に持ち込もうとするので、先程よりは戦いの攻防が一段回上がっている。


 パンチ、タックルをフェイントにして死角から蹴りを入れてきた! 今のは良い攻撃だったな。ちょっとびっくりしたぞ。


 ゴライアの蹴り足をつかみ取り、そのままジャイアントスイングで訓練場の壁をめがけて放り投げた!


 ドゴオっ!!


 むっくりと起き上がったゴライアだが、足元はふらふらになっている。投げ飛ばしたゴライアの側まで行くと、チャクラで回復してやり声をかけた。


「素手の闘いは終わりだ。次はパーティー戦だ。待っててやるから。鎧を着てこい。次は俺もスキルを使うぞ。俺も薄着になって闘ってやれなくて悪かったな」

 

「いや、それには及ばん。俺ほどの眼筋力めぢからがあれば、服の上からでも筋肉の動きはわかる。······この俺が手も足も出ないとはな。素晴らしい筋肉だった」

 

 ゴライアは、そう言い残すとパーティーの方に戻っていき鎧を装着し始めた。


 え!? なにそれ!? ゴライアは服を着ていようと俺が裸に視えてるの?


 やだ、キモい!!


 

 俺とゴライアの一対一の闘いに、けりが付いたところを観て、周りの観衆が勝手に大盛り上がりしている。


 俺もエリーの斜め前の定位置に移動する。ゴライアが鎧を装着し終わると、待ち構えていたのか、白魔道士ネアからの光が、パーティー全体に降り注ぐ。防御力をあげる魔法だな。


 同時に黒魔道士ローザからブリザード系の上級魔法ブリザザが広範囲を巻き込んで飛んできた。


 殺意増し増しだな。もし俺達が同レベルでカチモンじゃなかったとしたら、この一撃で死んでいたかもしれない。


 だがレベル差が倍近くあり、更にカチモンの俺にはたいして効かんな。エリーの前に身体を移動して庇い、出来るだけ多く俺の身体で魔法を受ける。


「今なにかしたか?」


 決めゼリフも忘れない。


 俺の魔法防御力の高さに勇者パーティーは驚愕している。無理もない、普通のモンクは魔法防御力が低いからな。


 俺が動かないで待ってやっていると、黒魔道士ローザから次々と攻撃魔法が飛んできた。たいして効かんがな。


 ん!?


 魔法と爆炎を目隠しにして至近距離まで接近していたゴライアとアイスが左右から挟み撃ちにして剣を振るってきた!

 

 左右の手でそれぞれ捌き、そのままの流れでゴライアに肘とアイスに膝を叩き込む!


 メコォ!


 二人の鎧が大きく陥没した。

 苦しみしゃがみ込んだ二人の顔を蹴飛ばし、大きく吹き飛ばす!


 左右にわかれて吹き飛び、その場でうずくまるアイスにネアが駆け寄り回復魔法をかける。


 直ちに起き上がったアイスが、スキルの構えを取る。勇者の斬撃スキル『大地斬り』で切りかかってきたが、それもマナを濃密に纏わせた腕で剣ごとはじき飛ばす!

 

 お前らの攻撃は通用しない事がわかった頃合だろう。


 そろそろいいか?


 レベルが低い相手には瞬間移動かと思われるスピードで、一人離れてしまったゴライアをローザの方に放り投げ、勇者パーティーを歌の効果範囲に一纏めにする。


「エリー、かえるの歌だ」


「は、はい! 『かえるの歌』!」


 ボワン! ボワン! ボワン! ミス!


 白魔道士ネアはカエルにならなかったが、他の三人はあえなくカエル化してしまった。

 

 ん?


 なんか今のネアのカエル化のミスは引っかかるな······


 白魔道士だから精神が高くて弾かれたのか??

 

 まあいい。余計なことをされる前に手刀でトンだ。


 ネアが気絶し、残りはカエル。


 インベントリから虫かごを取り出すと、カエル共を一纏めにして放り込んだ。


 パンパン!っと手を鳴らして、キッコウに伝える。


「立会人、終わったよ」


「お、おう。勝者はルイパーティー! 今後は仲良くしないまでも、揉め事は起こさないでくれよ!」

 

 キッコウの勝利宣言に、ドッと観衆がわいた。皆、興奮して口々に俺達の事を褒め称えている。

 


 キッコウがギルド職員に、状態異常カエルを回復するアイテム『乙女のチッス』を取りに行かせようとしたので、それを止める。


「少し、こいつらに話がしたいから、そのままでお願いします。この状態なら少しは聞く耳を持つでしょうから」


 指でツンツンしながら、エリーの活躍と、吟遊詩人の素晴らしさを含め、こんこんと説教してやった。

  




――――――――――――――――――――――――――――


平日は朝の通勤通学時間帯に毎日更新を致します。


素手での一騎打ちの二人のステータスです。


名前∶ルイ=コンノー

性別∶女

年齢∶15歳

職業∶モンク

レベル∶61


HP∶5202/5202

MP∶139/139


力  ∶306

体力 ∶314

素早さ∶247

器用 ∶183

知性 ∶61

精神 ∶62

運  ∶73




 名前∶ゴライア

性別∶男

年齢∶16歳

職業∶ナイト

レベル∶37


HP ∶3158/3158

MP ∶158/158

力  ∶189

体力 ∶189

素早さ∶114

器用 ∶95

知性 ∶57

精神 ∶75

運  ∶5

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