第29話 ホークト流

 早速『チャモ爺さん』事、ナイヤチ村の村長シロー爺さんの家にエリーと訪ねて行くと、シロー爺さんは、病にふせってベッドで寝込んでいた。このタイミングでのこれは、クエスト開始の合図のはずだ。


「お爺さん大丈夫ですか?」


「おお、ルイさんか。若い時の婆さんにそっくりじゃから、婆さんがお迎えに来てくれたかと思ったわい。すまんのぉ、もう年じゃから中々気力がでんでの、風邪をひいてしもうたわい。立つのも辛いんじゃ」


「そんな事を言わないでください。一緒にもう一度お墓参りに行く約束をしたじゃないですか。お爺さんの元気が出るようにと、とても良いアイテムを手に入れてきたんですよ」


「ほう、それは何かな?」

 

「それが何かを知りたければ、ユーリアお婆さんのお墓参りに行きましょう。がお爺さんを抱えて連れて行ってあげますから」


 効果が有るかどうかわからないが、とりあえずチャクラをシロー爺さんにかけて、お姫様抱っこでお婆さんのお墓までつれていった。


「シローお爺さん、ユーリアお婆さんのお墓に着きましたよ」


「うむ、ありがとう。さっきのチャクラで大分楽になったぞい。婆さんや、またルイさんが来てくれたぞ。······それでわしの元気が出るとは何かな?」


「それはですね······」 


 返事をしつつ、インベントリから、アララット山の山頂で手に入れたレアアイテム『ドアの箱舟』と大聖堂地下ダンジョンで手に入れたレアアイテム『降霊草』を取り出した。


「この『ドアの箱舟』を使うと、望んだ相手の霊魂と交信が出来ます。更に、この『降霊草』を食べると、呼び寄せた霊魂を一時的に食べた者に憑依させることが可能です。今回はが食べます。シローお爺さんは、呼び寄せたユーリアお婆さん本人ともう一度お話ができるようになるんです」


 このクエストでは『三チャの神器』を装備した者が食べる必要があるのだ。


「なんと······そのような事が出来るのか······長く生きているが、初めて聞く話じゃな······」


「それでは始めます」


『ドアの箱舟』にユーリアと書いた紙をセットし終えると『降霊草』をムシャムシャと食べた。


 すると······


 起きているのに、寝ているかのような感覚になり、自分の意思で身体を動かすことが出来なくなった。起きながら夢をみているかのようだ。


「ああ、シロー。久しぶりね」


 俺の口が勝手に動いて言葉を発した。

 俺の身体が勝手に動いてシロー爺さんの事をぎゅっと抱きしめる。


「······ユーリアなのか?」


「ええ、そうよ。シロー、あなたならわかるでしょう?」


「そうじゃな······ユーリアの心を感じる。これはユーリアじゃ」


「シロー、このルイの身体は***********なのよ」


「なんと!? そうじゃったか!! どうりで······」 

 

 あれ!?


 自分で話しながら聞いているのに、なんて言ったのかわからない所があったぞ!? そこだけモヤがかかったみたいに認識できないというか······


「あまり時間がないから手短に言うわね。今からルイの身体にホークト流の全てを叩き込むから、継承者の証をこの後でルイに渡してあげて欲しいの」


「おお、わかったぞい。もちろんそうしよう」


 シロー爺さんの返事を確認し、俺の身体で一つ頷いたユーリアお婆さんの意識は、俺の口を動かして俺の意識に問いかける。


「ルイ、聞こえているわね? 時間がないから、一通りの事を身体に記憶させます。後は実戦で使いながら自分のモノにしていくのよ。どうしても技の発動が出来なかったらシュウラの国にいるウォーラ兄さんを訪ねなさい。ではいくわよ」


 俺の口が動くのをやめ、続けて身体が物凄い速さで一つ一つの型をきめていく。流れるような体捌きで、淀むこと無く動く身体はまるで舞を舞っているかのようだった。


 不思議な感覚だ。


 まるでずっと前からこの動きを知っていたかのような感覚になり、身体の中に溶け込んでいくのを感じる。

  

 最後にピタリと動きをとめた俺の身体は、もう一度シロー爺さんの事を抱きしめる。


「時間切れのようね。ああ、シロー、今でもずっと愛しているわ。まだこっちに来るのは早いから元気に長生きしてね」


「ああ、そっちにはルイの事をもう少し見届けてから、ゆっくりと行こうかのぉ。それまでは、また毎日墓参りに来て、色々と話してやろう。愛しておるぞ」


 次の瞬間には、俺の身体の全ての感覚が戻ってきた。目には涙が溢れている。もうしばらくこのままでいよう。


 

 そのまましばらく抱き合っていた俺とシロー爺さんは、どちらからともなく体を離した。


「ルイさんや、もう一度ユーリアに会わせてくれてありがとう。生きる気力が蘇ってきたおかげで、すっかり身体の調子が良くなったわい。さあ、家に戻ろう」


 そう言って、自分の足でしっかりと家まで帰って行くシロー爺さん。俺達もその後をついて行った。


 家に帰ると、シロー爺さんは一旦自室へと戻ると、小さな箱を抱えて再び俺達の前にやってきた。


「ルイよ、これを受け取るのじゃ。これこそは二千年の歴史を誇る一子相伝の必殺拳ホークト流の正式継承者の証」


 そう言って、シロー爺さんが蓋をかぱりと開けると、中には一つのナックルが入っていた。


『ホークトナックル』を手に入れた!

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