第5話 パルとシャルル
激しい拳は何度も頬に飛んできた。両腕を二人の取り巻きに押さえられ、身を守ることもできない。頭もがつんと揺さぶられた。やがて唇の端から血が垂れた。その血を見たことで満足したのか、サクシードは三枚の紙幣をポケットに捩じ込み、取り巻き達と共に去っていった。
解放されると同時に地面に倒れ、目を閉じた。土の冷たさが伝わってくる。傷が痛む。
何も考えられずにじっと倒れていると、ざらついた足音がまた聞こえた。
「大丈夫か、パル」
パルの側に立ち止まり、そう声を掛けたのは、サクシードの実兄・シャルルだった。
大丈夫、と、掠れた声で返事をする。
「起き上がれるか?」
パルは小さく頷いて、ゆっくり体を動かした。
シャルルは自力で起き上がれないパルを手厚く介抱した。
制服や髪に付いた泥を払い、一番深く傷付いた左頬にハンカチを当てる。
「金は取られた?」
シャルルに訊ねられ、パルは頷いた。
「いくら?」
「……三万」
「返すよ」
「……いいよ、そんな」
「そういうわけにもいかないから」
シャルルには弟の度重なる愚行などお見通しだが、肝心な時に妙な邪魔が入り、今回のように助けが間に合わないことも多かった。
パルはシャルルに肩を借り寮へ帰った。スウィルビン出身のシャルル達と違い、少し離れた農村からやって来たパルは学校の寮で暮らしていた。
シャルルは二階の部屋までパルを送り届け、その場で三万テールを返した。決して小さな金額ではないが、サクシードが金を奪うことを見越して用意していたらしかった。
シャルルは寮母にパルの怪我のことを伝え、薬やガーゼを貰ってくれた上、夕食を自室で取れるように手配してくれた。貰ってきた道具で手早くパルの手当てを済ませ、シャルルは言った。
「今日はこれで帰るよ。また何かあったらいつでも言って」
「うん、ありがとう、シャルル」
そう言ってシャルルと別れた。
パルは毎度親身になってくれるシャルルを密かに兄のように慕っていた。同じ兄弟でありながらなぜシャルルとサクシードはあんな風に気質が違うのか不思議で仕方なかった。
パルは疲れ果てた体をベッドに横たえ、シャルルに貼ってもらった左頬のガーゼを撫でた。
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