第65話 素直なお礼
次の日の朝、昨晩の医者がパルを心配して様子を見に来てくれた。パルはシャルルに付き添われてトムじいさんの部屋に行き、体調は悪くないことを説明した。頭の傷も問題ないようで、一同胸を撫で下ろした。その後、パルは通学の準備のために部屋を出て行ったが、シャルルはトムじいさんに呼び止められてその場に残った。
「シャル坊や、今回の件、サク坊が絡んでいるのではあるまいな」
「俺もパルが怪我をした時にその場にいたわけじゃないから分からないけど、あの怪我はサクシードが原因ではないみたいだよ。現場にはいたけどね」
「サク坊が手を出したわけではないのだね?」
「うん。やったのはサクシードの取り巻きだってパルが言ってた。サクシードは本当に何もやってないみたい」
「そうか……。引き止めて悪かったね」
そんな話をしてシャルルはトムじいさんの部屋を出た。何か思うところがあるらしく、トムじいさんは思案顔で顎を撫でていた。
シャルルが来客用の部屋に戻るとパルはすっかり通学の準備を整えていた。シャルルも手早く荷物を纏めた。
二人は屋敷を出る前にもう一度トムじいさんの部屋へ行き、改めて礼を言った。パルは今回のことでトムじいさんに深く恩義を感じたらしく、感極まった目でトムじいさんを見た。
「あの……トムおじいさん、助けてくれて、本当にありがとうございました。僕、何てお礼を言ったらいいのか分からないけれど、とても嬉しかったです。ありがとう」
内気で不器用な少年が放つ素直な言葉は真っ直ぐトムじいさんに届いた。トムじいさんはパルの手を取って言った。
「何ともないようでよかった。またおいで、パル君。いつでも待っているから」
「はい。どうもありがとう」
トムじいさんはシャルルにも目を向けた。
「シャル坊や、お前さんもまたおいで。何なら二人で一緒に来ればいい。どのみち私は暇で仕方ないのだからね」
そう言って笑った。シャルルも頷いて礼を言った。
「ありがとう、トムじいさん。本当に助かったよ」
「さぁ、二人共、学校の時間だ。気を付けて行っておいで」
トムじいさんやサクレット邸の人々に見送られ、二人はダリアやセルシオと共に屋敷を後にした。
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