第64話 兄の立場

 シャルルとパルは食事と入浴を済ませ、来客用の寝衣に身を包み、二つ並んだベッドにそれぞれ横になった。入浴と言ってもパルは頭を怪我しているので体を洗うだけだった。寝る時も頭を下にはできず、頬を枕に付けるしかなかった。

「パル、具合は悪くない?」

 シャルルが訊ねるとパルは頷いた。

「平気だよ。僕、こんなお屋敷に泊まるなんて初めてだよ。ベッドも布団もふかふかだね」

 そう言ってパルは頬まで布団を被った。大きな屋敷での外泊を純粋に楽しむパルを見ているとシャルルも笑みがこぼれた。シャルルは試験前にもこの屋敷に泊まったが、その時はソファーでの仮眠だったので、こんなにきちんと休ませてもらうのは頻繁に交流のあった幼少期以来だった。例のサクレット夫人も二人の来訪を喜んで過分にもてなしてくれた。初めてサクレット夫人に会ったパルは始終あの勢いに押されてたじろいでいた。

 パルは布団から目だけ出してシャルルを見た。

「ねぇ、シャルル。サクシード、今どうしてるかな」

「さぁ、どうしてるだろうな」

 シャルルは頭の下で腕を組みながら答えた。

「疲れたって言ってたね」

「ああ、そんなこと言ってたな」

「殴られなかったのはよかったけれど、サクシードはこれからどうなるんだろう。何も考えたくないって言ってたし、生気もなかった」

「……そうだな。どうなるんだろうな。俺にも分からないよ。サクシードとは家でも顔を合わせないから」

「兄弟って色々あるよね。僕も実家でそうだった。五人きょうだいで仲は悪くないんだけど、いつも上手くいくことばかりじゃなかった」

 シャルルは驚いてパルを見た。

「パル、そんなにきょうだい多かったの?」

「そうだよ。言ってなかった? 五人きょうだいの二番目だよ。上に姉がいるんだ」

「へぇ、知らなかった。パルも実家では兄さんの立場なんだな」

 シャルルにそう言われ、パルは赤面した。

「シャルルみたいな立派な兄じゃないけどね」

「俺だって碌な兄じゃないよ。分かるだろ?」

「僕にとってはいい先輩だけどね」

 パルにそう言われ、シャルルは苦笑いした。

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