第63話 握手
シャルルとパルは来客用の部屋で一緒に寝泊まりすることになった。二人は手厚く面倒を見てくれたトムじいさんに礼を言って、セルシオと共に部屋を出た。
セルシオに案内されながらサクレット邸の長い廊下を歩いていると、向こうからダリアが歩いてくるのが見えた。
「あら」
と、ダリアは三人を見て立ち止まった。
「こんばんは、シャルル。それに、パルさん」
ダリアは慎ましく挨拶をした。セルシオは客人二人を示しながら言った。
「ダリア、今日は二人が泊まってくれるんだよ」
「まぁ、そうでしたの。ゆっくりなさってください」
ダリアは客人二人が宿泊することになった経緯を特に詮索するわけでもなく、パルに歩み寄った。
「パルさん、ゴールドメダル、おめでとうございます。わたくし、きちんとお祝いを伝えたかったので、お会いできてよかったです」
パルは狼狽えながら首を左右に振った。
「いえ、僕は、その……あの……」
内心、シャルルの背後に隠れたい気持ちだったのか、パルは後ずさりながらシャルルの袖を掴んだ。シャルルはパルに顔を寄せ、小声で言った。
「パル、ここは『ありがとう』でいいんだよ」
パルははっとして、
「あ、あの……ありがとうございます」
と言い直した。
その様子を見たダリアは笑った。
「シャルルはパルさんにとっても頼りがいのある先輩のようね。――パルさん、あなたは本当に素晴らしい方です。心から敬意を表します。ですが、来年の一学期は必ずわたくしがゴールドメダルをいただきます。お互い、頑張りましょう。あなたがいてくだされば、わたくしも全力で頑張れます」
ダリアはパルに手を差し出した。パルが戸惑いながらダリアを見ると、彼女はあたたかい眼差しでパルを見返した。パルもそっと手を出し、ダリアと握手を交わした。細く柔らかい手だった。ダリアは握手をしたパルの手にもう一つ自分の手を重ね、両手でパルの手を包んだ。
「どうか、手を抜かないでくださいね。勝手なことを言うようですが、わたくしはもう一度、あなたの本気の力に立ち向かってみたいから」
「は……はい……」
パルは自分の手にダリアの手のぬくもりが移るのを感じながらそう頷いた。
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