第62話 好意の理由
トムじいさんの連絡で医者が駆け付け、パルを診察してくれた。頭の傷は浅く、薬を塗ってガーゼを当てるだけで済んだ。吐き気や手足の痺れ、視覚異常などもなく、今のところ大丈夫だろうとのことだった。念のため二十四時間以内は体調の変化に気を付けるよう言われた。
それを聞くとトムじいさんはシャルルとパルに言った。
「そういうことなら二人共、今晩はここへ泊まってはどうだね。パル君を一人にしておくのは心配だ」
寮生のパルは難色を示した。
「僕、寮に帰らないといけません」
トムじいさんは笑った。
「パル君、君の通っている学校の名前は何と言ったかね?」
「サクレット……中等学校……」
「そうだとも。そして、今君がいるのはそのサクレット家の屋敷だ。学園を運営しているのはこの屋敷の人間ではなく、我々の親類なのだがね。こうやって生徒を贔屓するのはよくないことなのかもしれないが、今回は仕方のないことだ。我々が預かっている大切な生徒さんに何かあってからでは遅い。寮長と校長には私の方から連絡しておくから、今晩はここにいなさい。シャル坊や、お前さんも特に差し支えがないなら付き合っておあげ」
「うん。それは構わないけど」
「よし、話は決まったな」
そんな話をしていると、アイシスを送り届けたセルシオが顔を出した。
「お祖父様、ただいま戻りました」
「ああ、お帰りセルシオ。今晩はこの二人が屋敷に泊まってくれるよ」
「そうなのですか。――シャルル、パル君、遅くなってすまない。アイシスはパル君のことをずいぶん心配していた。お医者様には見ていただいたかい?」
セルシオにそう訊かれ、パルは自ら返事をした。
「は、はい。今のところは大丈夫。明日、アイシスにもちゃんと説明します」
セルシオは頷いた。
「そうしてくれると助かるよ。アイシスもきっと安心してくれる。大したことがなくてよかった」
そう言って柔らかな笑みを浮かべるセルシオを見ると、パルは胸がきゅっとなった。セルシオがアイシスの思い人であることはパルもよく知っている。
穏やかで紳士的で柔らかな笑顔が似合う人。――こんな笑顔で接してもらったら好意を抱いてしまうのも仕方ないのだろうなとパルは思った。
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