第5章 冬休み

1 サクシードとトムじいさん

第66話 導きの葉書き

 金曜日、スウィルビンの学園街では小等学校から高等学校まで一斉に終業式が行われた。

 サクシードの取り巻き達は付いてくるなと言われても今までの習慣でサクシードに付き従っていた。勝手に付いてくる取り巻き達に、サクシードはもう何も言わなかった。どのみち冬休みに入れば会わなくなる。

 終業式が終わって屋敷に帰ると、使用人からまた一枚の葉書きを渡された。期末試験前、一通の葉書きが届いて以来、週に一度のペースでトムじいさんから葉書きが届くようになった。どれも樹木をスケッチした絵葉書きで、『試験、お疲れ様。』『息抜きに遊びにおいで。』といったメッセージが添えられていた。サクシードは葉書きが届く度に机の一番上の引き出しに仕舞い込んでいった。今日届いたものも裏はやはり樹木のスケッチで、一言メッセージが書かれていた。

『お元気ですか。冬休みですね。一度、あなたに会いに行こうと思っています。』

 サクシードは驚きと共に戸惑った。会いに来られてもどう接していいか分からない。長年疎遠になっていたのになぜ急に自分と会おうとしているのか、考えても分からなかった。

 サクシードは届いた葉書きを手に持ったままサクレット邸を見た。幼い頃はサクシードもあの屋敷に行き来した。間取りもよく覚えている。トムじいさんの部屋の窓をじっと見ると、その窓枠の中に一つの人影があった。サクシードがサクレット邸を見ているのと同じように、トムじいさんもまた、コーレル邸のサクシードの部屋を見ているのだった。トムじいさんもサクシードの姿に気付き、小さく頷いた。サクシードはどきりとして視線を逸らした。

 このままでは本当にトムじいさんがこちらに来てしまうかもしれない。

 そう思うと居ても立ってもいられなかった。サクシードは着替えもせずに制服のまま屋敷を出てサクレット邸へ向かった。自分から誰かに会いに行くなどどれくらいぶりだろう。

 トムじいさんの部屋からもサクシードが来るのが見えたらしく、門番に用件を告げるまでもなく、トムじいさん自らサクシードを出迎えた。

「久し振りだね、サク坊。大きくなったな」

 トムじいさんは成長したサクシードの姿を見つめた。体格のいいトムじいさんはまだサクシードより背が高い。

 サクシードもトムじいさんをじっと見つめた。

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