第53話 強さと美しさ
パルと別れて家に帰ると、シャルルは自室の窓からサクレット邸を見つめた。ダリアの部屋の窓には明かりが付いていた。
校門でパルを出迎える前、シャルルはパルより先に校舎から出てきたダリアとも話をしていた。彼女はシャルルの姿を見ると足を止め、どんな顔をしたらいいのか迷うようにうつむいた。
「ダリア――」
と、シャルルが声を掛けたそばからダリアも言葉を重ねた。
「シャルル、ごめんなさい。わたくし、少し一人で考え事をしたいの」
「でも……」
「わたくしのことを心配してくださっているのですよね? ありがとう。ですけれど、今は一人になりたいの」
ダリアはそう言うと思い詰めた目でシャルルを見た。
「わたくし、試験前にシャルルとお話したこと、ちゃんと覚えています。怖くなったら誰かに頼った方がいいというあなたの言葉も覚えています。でも、今は気持ちを落ち着ける時間がほしいの。みだりに自分を孤独に落として虐めたいわけじゃないわ。ただ、冷静になる時間がほしいの。――お願い、シャルル」
そう言われると、シャルルも頷かざるを得なかった。
「そういう時間も必要だよね。無理に引き留めてごめん」
「わたくしの方こそごめんなさい。せっかく声を掛けてくださったのに。決してあなたにご心配をお掛けするような真似はしませんから」
「……うん、分かった。気を付けて帰ってね」
「ありがとうございます。失礼いたします」
そう挨拶をして別れたのだった。
ああいうふうに約束してくれたのだから無茶なことは本当にしていないのだろうし、一人で過ごす間に情緒も整えているんだろう。試験前に交わした言葉もきちんと届いていた。
彼女なりの精神の追い詰め方と立ち直り方は傍から見ていると冷や冷やした。それがダリアの美しさの正体でもあり強さにも繋がっているのだろうけれど、とシャルルは思った。
ダリアはシャルルのことを強い人と評した。それと同じように、シャルルもまたダリアの胸の奥に眠る芯の強さを見抜いていた。
その強さを信じて待つしかない。
シャルルはそう思いながら窓から離れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます