第54話 甘さ

 あの発表から二日が経った日曜日、昼過ぎにダリアがコーレル邸を訪れた。滅多にない来客だったので執事も内心驚きつつシャルルに取り次いだ。シャルルが玄関に出向くと、ダリアは深々とお辞儀をした。

「シャルル、突然お訪ねしてしまって申し訳ありません。少し、お時間ありますか? 色々とお話したいこともありますし、一緒にお散歩に付き合っていただけると嬉しいのてすが」

 シャルルは頷いた。

「いいよ。準備してくるから待ってて」

「ありがとうございます」

 ダリアは慎ましく頭を下げた。一昨日別れた時に比べると気持ちは落ち着いているように見えた。ダリアが中等学校指定のコートを羽織っていたのでシャルルもそれを羽織って外へ出た。

 高等住居区の街路樹はみんな葉が落ちて、剥き出しになった枝が寂しげに空へ伸びていた。二人は町の広場へ歩いていった。

「ダリア、気持ちは落ち着いた?」

 シャルルが訊ねると、ダリアは頷いた。

「時間をくださってありがとうございました。本当は昨日お礼に伺いたかったのですけれど、昨日は一日中雨でとても寒かったものですから、今日お伺いしました。無理に散歩になんて誘ってしまってごめんなさい」

「いいよ。予定もなかったし、俺もダリアのこと気になってたんだ。少しでも落ち着いたのならよかった」

 二人は広場の遊歩道まで来ると適当なところで足を止め、手摺りに凭れてユーゼル川を眺めた。昨日の雨の影響で川面は濁って荒々しかった。それとは対象的に空は穏やかに晴れ、ふと吹いてくるあたたかい微風にダリアの髪が揺れた。

「わたくし、色々と考えていたのですけれど、わたくしはまだまだ色々と未熟で、考えれば考えるほど醜い内面が見えてきて、猛省することばかりでした。勉強に関しては兄以外のライバルはいないと思ってましたし、実際今まで兄以外の人に負けたことはありませんでした。でも、その慢心がいけなかったのです。周りの方々に対する敬意というものが全く足りていませんでした。とても恥ずべきことです。頑張っていたのはみんな同じだったのに、わたくしはそのことに目を向けようともしなかった。ゴールドメダルを取ったあの方は――パルさんは、とてもすごい方なのね」

「そうだよ。パルはすごい子なんだよ。あの難解な学力コンテストの過去問題を、楽しんで解いたっていうんだからね」

 シャルルがそう言うと、ダリアは目を丸くして驚いた。

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