2 未来を探して

第69話 行き先

 冬休みに入り、シャルルは本格的に留学先の選定を始めた。留学先に関しては高等住居区の中でも流行があり、大都市の有名な学校や治安のいい穏やかな町の学校が人気だった。少数ながら国内留学をする人もいる。学びたいことがはっきりと決まっていれば流行に関係なくその学習に向いた学校に行くことになる。シャルルは特別学びたいこともないのでそれには当てはまらない。無難に人気の学校を選んでいくことになるだろう。

 どこへ行きたいかと訊かれても行きたい所は特にない。地図を広げたり学校案内の資料を見てもぴんと来るものはなく、溜め息が漏れるばかりだった。

 シャルルは資料を投げ出し、上着を羽織って外へ出た。

 よく晴れた暖かい冬の日だった。青空でのんびり昼寝でもするように薄雲が浮かんでいる。

 屋敷の門を出るとちょうどサクレット邸からダリアが出てくる所だった。ダリアもシャルルの姿に気が付き、恭しく会釈をした。

「シャルル、こんにちは」

「ダリア、出掛けるの?」

「はい。画材が足りないものですから」

 ダリアは絵を描くのが上手い。冬休みも何か作品の制作に取り組むのかもしれない。

 シャルルとダリアは商業区まで連れ立って歩いた。

「ダリアはもう留学先決めてる?」

 シャルルが訊ねるとダリアは頷いた。

「はい。わたくしはランセーユの町に行きたいと思っています」

「芸術の都だね」

「はい。絵の勉強がしたいので」

 ダリアのようにやりたいことがはっきりしていれば留学先もすぐに決められる。こういう時、得意なことが一つでもあれば人生の追い風になるのだなとシャルルは思った。

「セルシオ先輩はどこへ行くの?」

「スタンケッジの町です」

「すごく大きな町で人気の留学先だよね」

「そうです。語学習得や異文化交流を通して色んな人達と話がしたいんですって。スタンケッジは世界中から学生が集まりますから」

 サクレット家の嫡男ともなれば大都市の有名な学校を選ぶのが一番いいのだろう。華々しい町への留学は確かに魅力的だったがいまいち興味は湧かなかった。

 話をしながら商業区の入り口まで来ると、ダリアは立ち止まった。

「では、わたくしはこれで失礼いたします」

「うん。色々とありがとう。気を付けてね」

 ダリアは会釈をして商業区へ歩いていった。

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