第68話 宝物

「それにしてもサク坊は本当に大きくなった。幼い頃の面影はあるが、ずいぶん凛々しくなったな。輪郭や口元は亡くなられた母上によく似ている。小さい頃は私の膝の上にもよく乗ってくれたが、今はもう無理そうだね」

 そう言ってトムじいさんは笑った。

「君を見ていると昔のことを思い出す。繊細で傷付きやすいが、頭が良くて観察眼があり、一度人に懐いたら一気に心を開いてくれる。そんなサク坊が私は好きだった。一緒に絵本を読んだり葉っぱで船を作って遊んだり楽しかった。君達兄弟も母上を亡くされてからこの屋敷にめっきり来なくなったから、密かにその窓から通学する姿を見ておった。君達二人の元気な姿が見られると嬉しかった。――サク坊や、君も色々あって大変だっただろう。もっと早く気が付いて寄り添ってやれればよかったんだが、今の今まで何もできなかった爺を許しておくれ」

 トムじいさんの話を聞いているうちに、サクシードも繊細な感受性で小さな幸せを捉えていた幼少期を思い返した。幼い頃から腫れ物扱いされてきた自分のことを、こんなにはっきり好きだと言ってくれた人はいない。トムじいさんだけは自分を宝物のように扱ってくれた。こんな自分の成長を喜んでくれる人がいることが信じられなかった。

 トムじいさんはサクシードの隣に座り直し、心許ないほど細い少年の肩を抱いた。

「サク坊や、君は重いものを背負ってしまったな。どうやって自分の罪と向き合うべきなのか、一緒に考えていこう」

 トムじいさんはサクシードの握っていた葉書きを机の上に置き、サクシードの手を握った。

「困ったことがあったら何でも言っておいで。君はまだ若い。いくらでもやり直せる。私にできることなら何でも手を貸すから、腐らずに頑張っていくんだよ」

 サクシードは返事もせずにトムじいさんの胸で目頭が熱くなっていくのを感じた。張り詰めていたものがぷつりと切れ、涙が一粒落ちた。

 しばらく静かに泣いた後、サクシードは持ってきた葉書きをまた握り締め、トムじいさんの部屋を後にした。

「例の返事は急がなくてもよい。答えが出なければいったん忘れてもらっても構わない。また遊びにおいで。君が来てくれると私は嬉しい」

 トムじいさんにそう言われ、サクシードは小さく頷いた。

「……ありがとう、トムじいさん」

 消えそうな小声で礼を言うと、トムじいさんは笑顔で頷いてくれた。

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