3 アイシスとセルシオ
第6話 アイシスとセルシオ
秋が深まり楓の葉も赤くなった。スウィルビンの町の中でも一際静かな高等住居区の並木道をアイシスは歩いていた。
サクレット高等学校に通うセルシオと勉強会を重ねたお陰で中間考査では学年一位の成績を収めた。結果の報告と謝意を伝えに、高等住居区の最奥に建つサクレット家の屋敷に向かう。
セルシオはスウィルビン一の大富豪・サクレット家の嫡男だった。この一族は町の学校や工場を経営し、スウィルビンの町を纏めている。一庶民の自分が高等住居区に出入りし、サクレット家の長男と親交を深めることになるとは思いもしなかった。
広大な屋敷に着くと使用人に案内され、広場のような前庭を通り、玄関でセルシオの出迎えを受けた。
「アイシス、いらっしゃい」
日溜まりのような笑顔と優しい声だった。アイシスは胸が高鳴り、肩を竦めて「こんにちは」と挨拶をした。
「あの、これ、母と一緒に作りました。良かったら召し上がってください」
アイシスが小包にした手作りの菓子を出すと、セルシオは笑顔で受け取った。
「ありがとう。後でいただくよ」
二人はセルシオの自室に移り、互いに試験結果を報告し合った。
彼の部屋は十六歳の少年のものとは思えないほど落ち着いていた。黒々とした大きな本棚、ワインレッドのソファー、重厚な木製のセンターテーブル、華美なシャンデリア。高貴な空気が端々に感じられた。
「アイシス、学年一位の成績だったなんて凄いね」
セルシオに褒められ、アイシスは頬を染めた。
「セルシオ先輩に色々教えてもらったお陰です」
セルシオ本人も高等学校で学年一位の成績を収める秀才で、アイシスはこよなく敬意を抱いていた。
いつもなら軽く雑談をした後勉強会をするが、今日は試験後の息抜きということで町の広場へ散歩に行くことになった。
美しい秋晴れの日曜日。憧れの人と肩を並べて並木道を歩く。
「いい天気だね。散歩に出て良かった」
セルシオは紅葉した楓を見上げながら言った。
はい、と、アイシスも慎ましく返事をする。胸が熱くどきどきした。
二人は静かな高等住居区を出て、町の広場に向かった。
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