第18話 将来

 土曜の午後、パルは葉書きを持って出掛けた。

十一月も中旬に入ったが晩秋とは思えないほど暖かく、晴れ渡った空の下を歩いていると暑く感じた。汽車で三時間揺られた先にある故郷も、今年はこんな感じで暖かいのだろう。上着を羽織ってきたが、今はいらなかったかもしれない。

 パルは月に十万テールの奨学金を支給されていて、その内六万テールは寮の家賃で消えていった。食費や光熱費は家賃に含まれているので心配はいらないが、これでも特待生の特権でいくらか割引されている値段だった。割引がなければ寮に入ることすらできなかっただろう。二ヶ月に一度は三万テールを故郷へ送り、パルの手元にはほとんど残らない。そこから三万テールもサクシードに取られてしまっては生活が成り立たない。シャルルにお金を返して貰ったのは、本当はありがたいことだったのだ。

 特待生の中には高等住居区出身の生徒も多い。そうした生徒は奨学金を辞退するのが通例らしく、辞退された奨学金は他に必要としている生徒に回されるということだった。

 パルもこうして学校へ通わせてもらっている以上、意味のある日々を送りたかった。なぜ自分に奨学金が支給され、家賃の減額もされているのか。それは、学校が自分に期待をしてくれているからだ。この生徒なら大いに活躍し、大成してくれるだろうと思うから育ててくれているのだ。

 将来のことをはっきり決めたわけではないが、農業をしている実家のために、作物の品種や土、気候などの研究もしたいし、読書好きなので、世界中の作家の人柄や人生を時代背景と照らし合わせて研究したいとも思った。

 実際、夏季休暇には後者の課題に取り組み、作文に纏めた。貧しい自分にも門戸を開いてくれる学校の図書室や町の図書館は心強い味方だった。その作文は程々の評価を受けたが、まだまだ努力を重ねなければならないことは多くあるのだと痛感した。

 冬季休暇は故郷に帰るので久々に家業を手伝いながら農業を題材に作文を書いてもいいかもしれない。

 パルはポストの前まで来ると葉書きを投函した。

 家族に心配を掛けるのは本意ではない。だが、冬季休暇の直前には期末考査と学内選抜学力コンテストがある。結果次第ではただでは済まないだろう。

 うららかな町の景色とは裏腹に、パルは憂いを抱えながらポストから離れた。

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