3 未来を見つめて
第19話 きっかけ
月に二度開いているセルシオとの勉強会の日、アイシスがサクレット邸に行くと、一人の看護師が屋敷に入っていく所だった。
「アイシス様、いらっしゃいませ。ばたばたしていて申し訳ございません。大旦那様が手術を受けられた後でして」
門前で執事からそう説明され、アイシスは驚いた。今日の勉強会は前々から約束していたことだが、体調の悪い家族がいるのなら見合わせた方がいいのではないか。そう思っていると、執事はにこりと微笑み、
「さぁ、セルシオ様がお待ちですよ」
と、アイシスを招き入れた。
広い前庭を通った後、屋敷の玄関でセルシオに出迎えられ、そこで詳しい話を聞いた。サクレット家の大旦那というのはセルシオの祖父の事だった。
「お祖父様は家族の中で一番元気でぴんぴんしている人なんだけど、この前一泊二日で手術を受けてね。それ以来一日中ベッドで過ごしてるからお世話をしてくれる看護師さんに来てもらってるんだよ。なかなか元気な病人でね、昼間はひっきりなしに客人が来るし、豪快に喋って笑うし、やっぱり家族の中で一番生き生きしてるよ」
セルシオは笑った。
元々じっとしていられない質で、時間があればテニスや登山に出掛け、幼い頃はセルシオやダリアも連れて行かれたようだった。庭師に混じって庭いじりをしたり、散歩に出掛けては茶飲み友達を作ったり、高等住居区の子供達を庭に入れて遊ばせたり、とにかく家族も知らないうちに色々行動しているような人だった。突然見知らぬ人が見舞いに来て、初めてその人が祖父の友人だと知ることもあるらしかった。
「そういうわけだから、何も心配はいらないよ。気兼ねなくゆっくりして行ってね」
セルシオの気遣いに、アイシスは頭を下げて礼を言った。
アイシスがセルシオと勉強会をするようになったのは、中等学校入学後の初試験前、勉強の進め方に悩んでシャルルに相談をしたのがきっかけだった。そこでセルシオを紹介され、屋敷で勉強会を開くようになった。
ちなみに、シャルルと仲良くなったのは、たまたま図書室で何度も顔を合わせ、会釈を重ねたことがきっかけだった。
勉強会の発端を思い返す度、人の縁の不思議な力を感じた。
セルシオは将来、サクレット家の家業を継ぐことになる。彼に限らず高等住居区の子供はみんな、見識を深めるため若い頃から留学などで町を離れるのが習わしだった。
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