第20話 繋がり

 セルシオやシャルルから留学の話は度々聞いていて、二人もゆくゆくは町を離れる予定だと言っていた。特にセルシオは来年から留学できるようすでに準備を進めている。今はアイシスと一緒にいられても、来年からはそうではないのだ。セルシオと出会い、まだ彼に対して特別な感情もなかった頃からそんな話を聞いていたので、心のどこかで別れの覚悟はしておかなければならないと思ってはいたが、いざそのことを考えると寂しさで胸がいっぱいになった。当初、週一度で提案された勉強会も、セルシオに甘えすぎてはいけないからと月二回に抑えてもらった。アイシスなりに距離を取って付き合ってきたつもりだが、セルシオの紳士的な振る舞いに触れる度、憧憬は膨らんだ。温厚な性格なのは生まれながらの気質なのだろうが、町の将来を担うサクレット家の嫡男として隅々まで躾の行き届いた折り目正しい同世代の異性に触れることはアイシスにとっても人生初めての経験で、優しくされるのはセルシオがそういう性格なだけで自分が特別なわけではないと分かっていてもときめいた。

 セルシオはアイシスを部屋に入れると、机の引き出しの奥から古いノートを出した。

「これは中等学校時代に使っていたノートだよ。今アイシスが習っている単元の板書がどこかにあると思うんだけど」

 五、六冊積み上げたノートをいくつかパラパラと捲り、セルシオは手を止めた。

「ああ、あった。多分、ここだね」

 差し出されたノートを、アイシスはじっと見た。ノートには教師の板書の他に、セルシオが自分で調べたらしい補足や簡単な所感が至る所に書き加えられていた。そうやって物事を調べたり感想を書いたりすると記憶に残りやすいのだとセルシオは言った。

「このノート類も処分していかないとなぁ」

 セルシオの呟きに、アイシスは、えっ、と声を上げた。

「捨ててしまうのですか?」

「もう使わないからね」

「あの……もしよろしければ、お借りしてもいいですか?」

「こんなもので良ければ持って行ってくれて構わないけれど」

「ありがとうございます。勉強の参考にします」

 数年前のセルシオが書いたノートを、アイシスはゆっくりと眺めた。

 やはり心のどこかに寂しさ由来の焦りでもあるのだろうか。自分達の繋がりの証を、知らず知らず求めているような気がした。

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