4 見舞い
第21話 トムじいさん
サクレット家の大旦那・トムじいさんが手術を受けたと聞き、シャルルは見舞いに向かった。幼い頃はしょっちゅう遊び相手になってもらい、ハイキングやピクニックに連れて行ってもらったこともあった。セルシオやダリアとも物心がつくまではよく遊んだが、シャルルが小等学校に上がった頃から異性のダリアとはめっきり遊ばなくなった。セルシオとは今でも顔を合わせれば一言二言言葉も交わすし、必要があれば込み入った話もする。シャルルにとっても頼もしい先輩だった。
手術以降トムじいさんは厳重に食事管理をされているというし、ここ数日で冬らしい寒さになったので、見舞いの品は暖かそうな膝掛けにした。
――ポート街の女詩人はこの寒さで体調を崩してはいないだろうか。
膝掛けを見ながらふと思った。
サクレット邸ではシャルルと一番馬の合うセルシオが出迎えてくれた。サクレット家の家族には挨拶の印として菓子を持ってきたのでセルシオに手渡す。
「色々気遣ってくれてありがとう、シャルル。お祖父様もシャルルの顔を見たら喜ぶよ」
そう話しながらトムじいさんの部屋まで案内をしてくれた。セルシオは部屋の入口で一言トムじいさんに声を掛けてシャルルを引き渡し、自分は一礼をして部屋を出て行った。
「やぁ、シャル坊、相変わらずやんちゃしてるか?」
奥のベッドから太く嗄れた声が聞こえた。シャルルは笑いながら「まぁね」と言ってベッドに近付いた。
体を動かすことが好きだったトムじいさんは逞しい肉体をほとんど保っていた。ほんの少し痩せたのだろうか。僅かにシルエットがすっきりしたような気がするが、生命力に満ちたオーラは変わらなかった。
「これ、お見舞いだよ。最近寒くなったから役に立つかなと思って」
ベッド脇の椅子に座りながら見舞いの品を手渡すと、トムじいさんは喜んで受け取った。
「おお、近頃朝晩はよく冷えるからな。ありがたい。使わせてもらうよ」
トムじいさんは早速掛け布団の上に膝掛けを広げた。
「こうしておくと布団の中が暖まるんだ。――例の貧民街にもちょっかいを出しているそうだな」
「うん、出してる」
シャルルがそう答えるとトムじいさんは愉快そうに声を上げて笑った。
「あっはっは! お前さんは本当に、若い頃の私とそっくりだ」
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