第40話 熱が下がって

 サクレット邸ではセルシオが出迎えてくれた。

「シャルル、昨日は本当にありがとう。助かったよ」

「いいえ。お役に立てたのならよかったです。約束していたノートを持ってきました」

「ありがとう。ダリアもシャルルのことを待っていたんだよ」

 ダリアはすっかり熱が下がり、今日は一日ベッドで休んでいたということだった。シャルルが夕方ノートを持ってくると聞き、ダリアはシャルルを待っていたらしかった。

 セルシオに案内されてダリアの部屋に入ると、ダリアはベッドからシャルルに頭を下げた。セルシオは部屋に入らずに去っていった。ドアが閉まり切ったことを確認すると、ダリアは再び頭を下げながら言った。

「シャルル、昨日はどうもありがとうございました。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

「熱は下がったみたいだね」

「お陰様で」

「よかった」

 思わず安堵の笑みが浮かんだ。物心付いてからダリアに対して微笑みを向けたことなんてあっただろうか。心なしかダリアも口角を上げたような気がした。

 シャルルは持ってきたノートをダリアに差し出した。

「あんまり上手に書けてないけど、こんなもので参考になるかな」

「ありがとうございます。昨晩書いていただいたものも今日拝見しましたけれど、分かりやすかったです。あれだけお書きになるのは大変だったでしょう」

「セルシオ先輩が一緒だったし、俺も自分の勉強になって助かったよ」

「このノート、拝見してもよろしいですか?」

「もちろんいいよ」

 ダリアはノートを広げる前に、立ちっ放しのシャルルに椅子を勧め、彼が座るのを見届けてからノートを開いた。

「シャルル、このノートを書く時に苦戦した問題はありましたか?」

「そうだな。やっぱり発展問題は難しかったよ。条件が複雑でややこしいし、問題を解くプロセスも長くなるから小さなミスをしがちで、それを見逃すともうお手上げになる」

「……シャルル、お時間はありますか? 迷惑ついでに、少し一緒に見直しをして欲しいのですけれど」

「いいよ。俺でよければ」

「では、よろしくお願いいたします」

 ダリアは慎ましく頭を下げた。

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