第41話 肩先
ダリアはシャルルの前で徹頭徹尾上品であり続けた。サクレット家の息女として躾けられたことや本人の矜持の高さもあり、普段から弱みを表に出さないダリアらしい振る舞いだった。彼女が身嗜みに気を遣っていることは遠くから見ていても明らかだったが、指先まで輝くように美しいのには驚いた。
シャルルはノートの内容を説明しながら昨晩のセルシオとの会話を思い出し、ふと訊ねた。
「ねぇダリア、勉強なら俺に頼るよりセルシオ先輩に教えてもらった方がいいんじゃない?」
「でも、このノートを書いたのはあなたですから、あなたにお訊ねするのが一番だと思います」
「それはそうなんだけど、セルシオ先輩は教え方が上手いからダリアも頭に入りやすいんじゃないかな」
「お兄様はアイシスさんのことも見ていらっしゃるから、わたくしまで頼りにしてしまってはご負担が大きいのです」
「……セルシオ先輩とアイシスに遠慮してるってこと?」
ダリアはしばらく考え込んでいたが、
「……ええ、そうなのかもしれませんね」
と曖昧な返事をした。その辺りもダリアのプライドの高さに関係していそうだとシャルルは思い、深く追及しなかった。
「ところでシャルル、椅子に座っていてはノートが見づらいでしょう? よかったらこちらにいらしてください」
ダリアは唐突にそう言って、ベッド上で半身を起こして座っている自身の真横を指し示しながら言った。シャルルはダリアの顔を見ながら慎重に確認した。
「……いいの?」
「あなたさえよろしければ」
「……じゃあ、ごめんね」
シャルルは椅子から腰を浮かし、ダリアが指し示した通りベッドの上に腰掛けた。狭いスペースに座ったので、お互い肩が触れた。
「ねぇシャルル、昨日わたくしを運んでくださったけれど、重かったでしょう? 本当にごめんなさい」
「全然重くなんてなかったよ。俺の方こそ、勝手に抱え上げてごめん。用事があったとはいえ、熱のある中急に訪ねてしまって悪いことをしたと思ってる」
「ご迷惑をお掛けしたのはわたくしの方です。部屋でじっとしていればよかったのに、無理をしてしまったものですから。助けてくださってありがとう」
「熱、下がってよかったね」
そう言うと、ダリアはシャルルの肩先で微笑み、そっと頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます