3 大切な人
第84話 夢
その日の夜、シャルルは食事も喉を通らなかった。使用人達に悟られないよう普段通り振る舞おうとしたが、スープ用のスプーンを手に持っただけで喉が塞いでしまい、一口も食べられなかった。血の気の引いたシャルルの姿を使用人達は心配そうに見守った。
「シャルル様、大丈夫ですか?」
彼らがそう訊ねても、シャルルは「大丈夫だよ」と返すだけだった。
「ちょっと風邪をひいたかもしれないから、部屋で休むね」
シャルルは適当に説明して自室に戻り、ベッドに横になった。
乾いたと思った涙は突然溢れて頬に垂れた。シャルルは閉じた瞼の上に腕を乗せ、袖に涙を吸わせた。
カムリと帽子の男が付いているのだから粗末に扱われることは決してないだろうが、彼女の体はどうなったんだろうか。あんなふうに息を引き取った人がどういう経緯で弔われるのか、シャルルには分からなかった。
暗い部屋で悲しみに暮れているうちに、シャルルは浅い眠りに入った。現実の境がゆらゆらと揺れて夢の空間がどこからともなく現れ、現実ではありえない不思議なことが起こる。そこでは過去と現在が入り混じり、人も空間も出鱈目に交わり合う。
――女詩人が目の前にいた。そこは、学校の教室だった。中等学校生でもない彼女が中等学校の制服を着て席に座っている。
あれ? お姉さん? どうしてこんなところにいるの?
そんなふうに思う反面、彼女が中等学校生であることを自然と受け入れている自分もいた。
彼女は何か行動をしそうで何も行動しなかった。何か言いそうで何も言わない。
彼女の意思を汲み取ろうと目を凝らして見ていると、突然レオに手を引かれ、校庭に連れて行かれた。そこではみんなが雪合戦をしていた。シャルルも雪玉を作りながら、早く女詩人の元へ戻りたいと内心焦っていた。理由を作って教室に戻ろうとするのに、なぜか上手くいかない。ずっと雪玉を握っている。
どうしよう。どうすればいいのだろう。
そう思っているうちに、目が覚めた。
体が重く、起き上がるのがやっとだった。熱を測ると四十度に至る高熱だった。使用人達は驚いて医者の手配をした。風邪をひいたという説明は使用人達を誤魔化すための嘘だったが、本当にこんな熱が出てしまい、シャルル自身も困惑した。
風邪ではなく、精神的ショックから来る熱であることは、シャルルだけが分かっていた。
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