第85話 眠り

 風邪ではないので咳や鼻などの症状はなかったが、がんがん響く激しい頭痛に襲われ、熱による倦怠感と共に苦しんだ。ショックで熱が出たなんて女詩人が知ったらきっと罪悪感を覚えるだろうなと思いながら、シャルルは頭痛と闘った。

 医者による問診では特に何も指摘されなかった。疲れが出たのでしょうと言って、医者は鎮痛剤を出してくれた。熱を下げる効果もあるから苦しかったら飲むようにと指示を受け、シャルルは早速一粒飲んだ。いっとき頭痛も落ち着き熱も下がり、その間だけは眠ることができた。

 その日は一日頭痛と眠気に翻弄された。夕方にはレオとリリハが屋敷を訪れ、昨日、シャルルが慌てて帰った際に教室に忘れていった荷物を届けてくれた。二人とは面会できなかったので直接お礼も言えず、心残りとなった。

 夕飯前にもう一粒薬を飲むと、解熱と共に食欲が湧き、あたたかいスープを軽く啜った。

 体が軽く感じたので明日には起き上がれるかしれないと油断したが、薬の効果が切れると再び熱は上がり、頭痛も戻ってきた。

 苦しいながら体はへとへとで、夜中になると自然と眠りに入った。浅いのだか深いのだかよく分からない眠りだった。

 痛みよりも疲れの方が上回ったらしく、シャルルは眠り続けた。いくつも短い夢を見たような気がした。何の夢だったのかは忘れてしまった。忘れたそばから新しい夢が生まれ、生まれたと思ったらすぐに終わって忘れてしまう。そんなことを眠りの中で何度も繰り返した。

 そうやって何時間過ごしたのか分からない。シャルルはそっと目を覚ました。窓から白い光が差していた。朝になったのかな、と、ぼんやり思った。

「シャルル坊っちゃん、よかった。目が覚めたのですね」

 看病に付いていたらしいメイドが明るい笑顔を浮かべた。

「もう一生、目を覚ましてくださらないかと思いました。熱は下がったのになかなか起きてくださらなくて、二晩も眠っていらしたのですよ」

「えっ!?」

 シャルルは驚いて飛び起きた。眠ったのは一晩ではない。一晩を越し、昨日は一日中眠り、そうしてもう一晩眠って、やっと目を覚ましたらしいのだった。

 シャルルは頭の芯に僅かな痛みを感じながら、窓の光を見つめた。

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