第44話 留学

 二人は広場のベンチに座り、日差しに当たりながらくつろいだ。こうして二人で肩を並べて座るのは川辺で語り合って以来だった。あの時はどことなく固い会話を交わしたが、今日は明るい日差しのもと、お互い気楽に話をした。

「僕、冬休みの閉寮の時には実家に帰るんだ。親が農業をやってるから手伝ってくる。冬はあんまり仕事ないんだけどね。それで、親の仕事を見ながら農業の効率を上げるための策を考えて、作文に纏めたいんだ。効率よく収穫量が増えればそれに越したことはないし、親の助けにもなるだろうから。将来は農業の研究をするのもいいかなと思ってる」

「へぇ、すごいな。俺は将来のことなんてまだ何も考えてないよ」

「でも、高等住居区の子は大抵家業を継ぐって聞いたよ」

「そうだな。みんなそれを期待してるんだろうし、最終的にはそうなるのかもしれない。でも、まだ何も考えてないんだ」

「そうなんだ……。高等住居区の子はみんな他の町に留学するらしいけど、本当なの?」

「それは本当。俺もどこへ行くか考えなきゃいけない」

「行く所、探してる最中?」

 シャルルは苦笑いをしながら首を左右に振った。

「探してもいない。もうそろそろ決めないといけないんだけどさ」

「いい所、見つかるといいね」

「ありがと。頑張って探すよ。パルも実家を出てこの町で頑張ってるもんな」

 パルは肩を竦めて照れ笑いをした。

「そういえば、僕も留学してるようなもんだよね」

「実家を出る時不安はなかった?」

「あったよ。知らない所へ行くのは怖かった。でも、こうしてシャルルとも出会えたし、ここへ来て本当によかった」

「俺もパルに会えてよかったと思ってる。パルを見ていると濁った気持ちが晴れていくような感じがする。パルの言葉はいつでも真摯だし、聞いていると胸を打たれる。もっと話していたいと思うよ」

 パルは戸惑ったように微笑んで俯いた。

「そんなこと初めて言われたよ。僕、あんまり人と話すの上手くないのに」

「そんなことないよ。俺には何でも話してくれるだろ?」

「うん。でも、誰とでも話せるわけじゃないから」

「そっか……」

 シャルルはそう呟いて、美しく広がる青空を見上げた。 

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