第45話 メッセージ

 サクシードは朝からベッドに横たわり、何を考えるともなくぼんやりしていた。学校のある日は大人の目を誤魔化すために日常生活をこなすふりをするが、休日はそんな気力も湧かなかった。試験勉強もしていない。焦りの気持ちもなかった。心臓は動いているが、これでは死んでいるのと変わらないなと思った。

 そこへ、一人の執事が部屋のドアをノックし、一枚の葉書きを持ってきた。

「サクシード様、お手紙ですよ」

 サクシードは不審に思いながら体を起こした。今の自分に手紙を寄越す人なんていないはずだった。

「サクレット邸の大旦那様からです」

 執事にそう言われ、サクシードはますます不審に思った。葉書きを受け取って差出人を見ると本当にトムじいさんの名前が書いてあった。裏には柔かな色鉛筆画と簡単な挨拶文が書かれていた。色鉛筆で描かれていたのは一本の大樹だった。青空の下、明るい日差しを受けている。その色鉛筆画に、『お元気ですか。朝晩よく冷えるので体に気を付けてください。』という文章が添えられていた。

 サクシードも幼い頃はトムじいさんに世話になったが、ここ最近は噂も聞かないくらい疎遠だった。なぜ今頃になって葉書きなど送ってきたのだろう。

 届いた葉書きをどうすればいいのか分からず、とりあえず勉強机に置いた。この机もしばらく使っていない。パルから奪った紙幣も丸まったまま転がっていた。サクシードは机から離れ、またベッドに寝転がった。

 学校でいつも連れ立っている取り巻き達はサクシードの陰鬱さに戸惑いながらもまだサクシードのそばを離れなかった。いい加減離れて欲しいと思う気持ちもあれば、面倒なので好きにしてくれればいいと思う気持ちもあった。あれだけ吹き出すように湧いていた苛立ちという苛立ちがほとんど消えて、今では無になっていることが自分でも信じられなかった。

 自分がどこから来てどこへ行くのか、サクシードには分からなかった。大人達は将来のことを色々と計画してそのレールにサクシードを乗せようとしているが、本人にはもはやそんな気力もなく、レールを外れて荒野で呆然としている。そんな少年をどうやって未来へ連れていけばいいのか、答えを出せる大人はいないだろう。サクシードも何をどうすればいいのか分からない。

 とりとめのない考え事をしているだけで一日が終わった。

 トムじいさんの葉書きだけが頭の中に引っ掛かっていた。

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