第4章 冬の混乱

1 試験後

第46話 久しぶり

 期末試験は十二月第二週の月曜日から水曜日まで三日間に渡って行われた。学力コンテストに参加する生徒は木曜日と金曜日も試験を受ける。一週間の試験期間を終えるとシャルルもようやく落ち着いた。すぐにでもポート街へ行きたかったがさすがに疲れが出て試験直後は足が向かなかった。金曜日に試験を終え、土日に心身を休め、月曜日の放課後にやっとポート街に足が向いた。

 眩しい夕日に目を細めながら大通りを進んでいくと、ポート街の最奥で女詩人が木箱に座っている姿が見えた。今日はポート街の面々に一人も会わなかった。カムリは以前言っていたようにシャルルが来たことをどこからか見ていたのかもしれない。帽子の男も姿を見せないだけで物陰から監視でもしているのかもしれない。

 女詩人はシャルルを見ると人懐こい笑顔を浮かべた。膝にはシャルルの贈った膝掛けを掛け、その中に手を入れて温めていた。

「久しぶりね。試験は終わったの?」

 彼女の方から挨拶をしてくれたのは初めてかもしれない。シャルルは木箱の隣に腰を下ろした。

「やっと終わったよ。さすがに疲れた。お姉さんは元気だった?」

「ええ。元気にしてたわよ」

 彼女の言う通り顔には以前よりも生気を感じた。ただ、よく観察してみれば、膝掛けからちらりと見えた手首は骨が浮くほどほっそりとしていたし、首も折れそうなほど細かった。気持ちは落ち着いていても体は弱っている。そんな風に見えた。

 女詩人はシャルルの顔を見ながら言った。

「あのね、この前約束した詩、今書いてる最中なの。いくつか書いたのだけれどどれも納得いかなくて。いいものを書きたいのに気持ちだけ空回りするのよ」

「詩は書くのが難しいからすごく大変なんだろうな。俺、詩作って苦手なんだ。授業で書かされたりするんだけど、白けてばかりで上手く書けない」

 女詩人は笑った。

「あなたにもそんな一面があるのね」

「色々あるよ。もっと聞かせてあげたいけれど恥をかくだけだからやめておく」

 そう言ってシャルルも笑った。

「約束、守れなくてごめんね」

「いいよ。気長に待ってる」

 こうして度々ポート街へ来ては心を癒やしていくが、カムリがポート街を仕切っていること以外、シャルルはこの街のことを何も知らなかった。

 女詩人が何を思いながらここに生きるのか、彼女の隣にいながらふと考えた。

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