第47話 傍観者

 女詩人と別れた後、ポート街入り口の煉瓦壁に戻るまで、やはりシャルルは誰にも会わなかった。何か物足りず木戸を潜りかね、その隣に腰を下ろしていると、見かねたように帽子の男が姿を現した。

「どうした、こんな所で」

 妙に偏屈な一面を見せる少年を前に、男の声色は心なしかいつもより柔らかいような気がした。シャルルは座り込んだまま彼を見上げた。

「ねぇ、お兄さん。俺、ポート街のことにはあまり深く関わらない方がいいとは思ってるんだけど、みんな、どういう気持ちでここいにるのか、たまに知りたくなることがあるんだ。でも、そんなこと、訊かない方がいいんだよね」

「みんなそれぞれバックグラウンドが大きく違うからな。あまり個人的なことは突っ込まない方がいいようだ」

「お兄さんはこの町の人ではないよね? カムリとは親交あるの?」

「ここに滞在する便宜上顔見知りにはなった。だが、俺はカムリに対してもあの娘に対しても傍観者の立場だ。彼らに対して何かをしようとは思わない」

「カムリはあの詩人のお姉さんのことを知ってるの?」

「それは俺にも分からない。あの娘に何かあればカムリも無関係ではいられないのだろうが、何も起きていないうちから気を揉んでも俺達には何もできない。お前だって自分の手でポート街を変えるのは嫌だろ? あくまでこのポート街の、何の手垢も付いていない乾いた空気が好きでここへ来ているはずだ」

「そうだよ。俺はポート街が好きだ。でも――」

「別に俺はお前を責めてるわけじゃない。俺だってこの街の空気に惹かれて滞在している者の一人だ。ポート街の人心の神秘に深く触れたい時もある。だが、焦るな。ポート街は必要があればお前に心を開いてくれる。それを待て。俺もそのためにここにいる」

 シャルルはいつになく思い詰めた瞳で男を見上げた。彼は立ち尽くしたままシャルルに言い聞かせた。

「いいか。俺達は傍観者だ。ポート街に介入する権限はない。カムリの統治で治安も落ち着いている。お前が心配しなきゃならないようなことは何もない。下手に彼らに手を出し、畏敬の念を忘れたら、俺達はここにいられなくなる」

 帽子の男はシャルルに手を差し出した。

「立て。ここにいても体を冷やすだけだ。もう帰る時間だろ?」

 シャルルは喉が熱く塞がるのを感じながら、彼の手を取って立ち上がった。

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