3 記念樹

第100話 庭の木

 日曜日の昼過ぎ、カーテンを開けて晴れた空を眺めていると、どこかに出掛けていたらしいダリアがサクレット邸へ向かって歩いていた。ダリアとは、傘に入れてもらったあの雨の日以来一度も会わなかった。まだきちんとお礼も言っていない。シャルルは部屋を飛び出した。

 ばたばたと階段を駆け下りて玄関の扉を開け、帰宅直前のダリアを呼び止めた。

「ダリア」

 シャルルの呼び掛けに、ダリアはすぐにこちらを振り向いた。品よく首を傾けて会釈をする。

「シャルル、こんにちは」

「久し振り。最近、全然顔を合わせなかったね」

「そうでしたわね。あれから、体は大丈夫でしたの?」

「うん。平気だったよ。ダリアのおかげ。お礼が遅れたけど、あの時は本当にありがとう」

「いいえ。お役に立てたのならよかったです」

 ダリアはそう言って屈託なく微笑んだ。

「ちょうどよかったわ。シャルルは覚えているかしら。わたくし達が小さかった頃、おじい様がみんなの成長を願ってうちの庭に木を植えたこと」

「うん。覚えてるよ。小さい苗木だったよね」

「ええ、そうです。植えた頃は子供の腰丈くらいしかありませんでしたけれど、もうずいぶん大きくなりました。近頃おじい様がそれをよく眺めていらっしゃるんです。今は冬で葉も花も付いてなくて、枝ばかりなのに。みんなの成長が嬉しいみたいで」

「トムじいさんらしいね」

 トムじいさんが微笑みを浮かべながら感慨深く木を眺めている姿が容易に目に浮かんだ。

「俺も、あの木をしばらく見てないから見てみたいな」

「ご覧になるのは構いませんが、本当に枝だけですよ。芽吹くのは当分先です」

「それでも見てみたい」

「それでしたら、ご覧になっていってください」

 二人は連れ立ってサクレット邸の門をくぐり、屋敷の北東へ回った。サクレット邸の庭には塀に沿うように十数本の木が植えられていて、それらの木の中に、トムじいさんが町の子供達の成長を願って植えた木があった。ダリアの言う通り、葉を落として枝だけになっていた。

 あの小さかった苗木は今、立派な木となって二人を見下ろしていた。

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