第99話 綺麗な心

 土曜日の昼下がり、シャルルはあたたかい日差しに誘われて散歩に出掛けた。まだまだ呑気に過ごしているが、来月からは本格的に高等学校入学の準備が始まる。同時に中等学校最後の定期試験も待ち構えている。留学の準備もしなくてはならない。やらなければならないことは山積みだった。晴れた週末の午後くらいは雑事を忘れてゆっくりしたい。そんなことを思いながら商業区まで足を伸ばし、ゆっくりと店を見て回った後、広場へと向かった。

 広場の遊歩道から眺めるユーゼル川は穏やかだった。広いみなもに太陽を受けて煌めいている。手摺りに凭れて川を見ていると、後ろから声を掛けられた。

「シャルル」

 振り返ると、そこにはパルがいた。

「パル、奇遇だな。散歩?」

「うん。シャルルは?」

「俺も散歩」

 パルはそれを聞きながらシャルルの隣に立ち、手摺りに凭れた。

「シャルル、もうちょっとで中等学校卒業だね」

「うん。何か実感湧かないけど」

「僕、シャルルと離れるの、少し怖い。いつも助けてもらってきたから。でも、弱いままじゃ嫌だから、シャルルと離れても頑張るよ。いつまでもめそめそしてたらみっともないし、迷惑かけちゃうもんね」

「パルは弱くなんかないよ。芯のある強い人だ」

 パルは困ったように笑った。

「そんなこと言われたの初めてだよ。僕、小さい頃からずっと弱虫って言われてきたから」

「パルは思慮深い人だよ。弱虫なんかじゃない。勇気のある人だ」

「……あの、何て言ったらいいのか分からないけれど、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」

 パルは手摺りに置いた腕の上に顎を乗せた。

「いつか強くなって、大切な人を守れるようになりたいな。きっと、人に寄り添ったり誰かを支えたりするのって、簡単ではないんだと思う。でも、自分にできることがあるなら、やっていけたらいいな」

 パルのそんな言葉を聞きながらシャルルはユーゼル川を眺めた。アイシスの話はしなかった。

 冬の日差しを受けてパルの目は透き通るように輝いていた。これからもパルはこの綺麗な心で、人を思いやっていくのだろうなとシャルルは思った。

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