第98話 魅力

 セルシオと話をした二日後、シャルルは放課後の図書室でアイシスに会った。彼女はシャルルを見るといつも通り笑顔を浮かべて礼儀正しく挨拶をした。セルシオの留学の話を聞いて内心寂しく思っているのかもしれないが、態度には一切表さなかった。

 二人は空いている席に座って話をした。

「一昨日、セルシオ先輩に会ったよ。春休みにはもう留学に行っちゃうらしいね」

 そう切り出すと、アイシスは頷いた。

「そうなんです。私もこの前教えてもらいました」

「寂しくないの?」

 そう訊ねると、アイシスは肩を竦めて首を左右に振った。

「寂しいです。でも、セルシオ先輩も留学先で色んなことを勉強して、今まで以上に素敵な人になって帰っていらっしゃるでしょうから、私もこの町で頑張ります。再会した時に、恥ずかしくないように」

 アイシスは窓の方へ視線を向けた。夕日に打たれ、窓は眩しかった。アイシスの横顔には、彼女の内に秘められた美しい強さが宿っていた。

「アイシスは強いんだな。寂しさに溺れたりしない」

「そ、そんなんじゃないんです。私はただ、憧れの人を追いかけてるだけです」

 アイシスは両手と首を左右に振った。

「ところでシャルル先輩、覚えてますか? 図書室のこの席、私が初めてセルシオ先輩のことを教えてもらった場所なんです」

 アイシスにそう言われ、シャルルは首を傾げた。

「そうだったっけ」

「はい、そうです。私が試験勉強のやり方に悩んでいる時に、シャルル先輩がセルシオ先輩のことを教えてくれました。勉強の教え方が上手い人がいるから紹介してあげるよって」

「うん。確かに俺もアイシスにそんなことを言ったのは何となく覚えてる。でも、この席だったんだ。アイシスはよく覚えてるんだな」

「はい。大切な思い出ですから」

 アイシスはそう言って微笑んだ。こういう飾らない素直なところがアイシスの魅力なのだなと、シャルルは今更ながらに気が付いた。アイシスと同級のパルは早々にこの魅力に気付いて自然と惹かれていったのだろう。

 パルはアイシスの気持ちにも気付いている。あの多感な少年は自分の気持ちをどう消化していくのだろう。

 シャルルも眩しい窓に目を向けて考えた。

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