第101話 枝
「本当に、大きくなったんだね」
シャルルは頭上の枝を見上げながら言った。
「それだけ長い時間が流れて、わたくし達も大きくなったということです。春には鮮やかな葉が芽吹き、初夏には純白の花が咲きます。とても綺麗なのよ」
「きっと、そうなんだろうな」
そう言いながら、シャルルはこの樹木が真夏に葉を茂らせて輝いている姿を思い描いた。この木が太陽の下で涼しい影を落としている頃、自分は何をしているんだろう。ふとそう思った。ダリアはそんなシャルルの横顔を見ながら訊ねた。
「ねぇ、シャルル。あなたはもう留学先決めたの?」
「うん。フィンラムに行こうと思ってる」
「いつ頃から?」
「まだはっきりと決めてるわけじゃないんだけど、準備が整うまで最低でも半年は掛かるっていうから、当分この町にいることになると思う」
「そうよね。お兄様もずいぶん時間が掛かりましたもの」
「セルシオ先輩は春休み中には行くって言ってたね」
「ええ、そうです。寂しくなります」
「みんな大抵二、三年は町を離れるもんね」
「そうですね。わたくしもそれくらい時間を掛けてゆっくり絵のことを学びたいので、寂しがっている暇はないのですけれど」
「みんなそれぞれ、別の道を行くんだね」
「はい。この木の枝のように、一つの場所で育ったわたくしたちも、西へ伸びたり東へ伸びたり、色んなところへ枝を伸ばして、それぞれ光を浴びに行くのです」
シャルルは頷きながら枝を見上げた。太い幹から伸びた枝は末端に行けば行くほど本数を増やし、他方へ別れていく。あたたかくなれば新緑が芽生える。自分もその枝の一つになるのだと思うと、不思議と気力が湧いた。
「ねぇ、シャルル」
ダリアはシャルルを見ながら言った。
「わたくしは、もう二度と自分を粗末にしないと決めました。この木のように、強く美しい人になりたいです。ですからシャルルも、あんなふうに、自分を虐げることはしないでほしいのです。傷付いているあなたを見るのは胸が痛むわ。元気でいてほしいです」
シャルルは笑って頷いた。
「ありがとう。ダリアがそう言ってくれるなら、俺も自分を粗末にしないように気を付けるよ」
それを聞くと、ダリアも安心したように微笑んだ。
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