2 兄弟
第28話 気鬱
スウィルビンの秋空に沈む夕日は日に日にサクシードの心を侵食し、錆色に染めていった。
パルを虐げたあの一件以来、サクシードは明らかに気力が衰えた。取り巻き達もこれまで以上に気鬱になったサクシードに戸惑っていた。
学校には通い、授業も受けているが、教師の話は耳に入ってこないし同級生の存在は鬱陶しいと感じた。
放課後、町中をふらついても気は晴れない。憂鬱の沼に足を突っ込んで抵抗もせずに沈んでいく。少し冷たい風が吹くとその冷たさが妙に肌に馴染んで、心なしか癒やされていくような気がした。
屋敷に帰るとサクシードは無気力な体を引き摺って制服のままベッドに寝転がった。彼も学内選抜学力コンテストの対象者だったが、配られた過去問題集には目も通していない。勉強机には三枚の紙幣が皺くちゃに丸められて放置されていた。
普段は同じ教室にいてもパルとは何の関わりも持たないが、あの一件から少し経った頃、一度だけパルと肩がぶつかったことがあった。そんなに激しくぶつかったわけではないものの、当たり所が悪かったらしくパルはよろめいて倒れた。ちょうどそばにいたアイシスが駆け寄ってパルを支えた。
「パル、大丈夫?」
特に彼女から咎められたり冷たい視線を浴びたりしたわけではないが、その場面を見て一気に血が上るのを感じた。サクシードは足早にその場を去った。それが、今になっても頭にこびりついて離れない。今まで何とも思っていなかったのに、アイシスのことまで憎くなった。
こうして敵視する相手が増えるたび、心の骨格ががたついて歪んでいくのをはっきりと感じた。手を翳せば見慣れた形ではなく、奇態な形をした五本指が見えるのではないか。そう思うほどだった。
体を引き摺って通っている学校へももう行きたくない。食事も残せば変に思われるので完食してはいるが、食欲もない。
八方塞がりだな、と、どこか冷静に思う自分がいた。
学校が終わった夕方、何もせずに部屋で寝転がっている時間が一番好きだった。
父や使用人、教師など、大人の目を誤魔化すために最低限のことを熟しながら日常生活を送っているが、それが破綻するのも時間の問題だろう。
サクシードは深く息を吐き、瞼を閉じた。
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