第27話 わざと
祖父が手術を受けてから二週間。今もベッドで静養中だが、体を動かすことが好きな彼は体の回復を待ち切れずに杖を出し、立ち上がって歩く練習を始めていた。部屋の中をうろつくばかりでなく廊下まで出て練習をしている。
夜更けまで問題集を開いていたダリアは自室の外で何かが倒れる音を聞き、廊下を覗いた。そこには杖と共に倒れている祖父の姿があった。
「お祖父様、大丈夫ですか?」
ダリアは駆け寄って祖父の肩を支えた。祖父は声を上げて笑った。
「少し臥せっている間にずいぶん足も弱ったようだ。悪いな、ダリア。私なら大丈夫だ。この弱った体を鍛え直すのが楽しみでな」
ダリアは呆れて溜め息を吐いた。
「まだ寝ていらっしゃらないと駄目よ。こんな所を看護師さんに見られたら怒られるわ」
祖父は少年のような悪戯な瞳で、
「看護師さんには内密にな」
と言った。こういう隠し事は隠したくてもすぐに見抜かれてしまうのにと、ダリアは再び溜め息を吐いた。
「ところでダリア、こんな時間まで何をしている?」
「もうすぐ試験ですから勉強をしていました。さっきお祖父様から頂いたチョコレート、美味しかったです」
「それはよかった。しかし、やり過ぎて体を壊しては元も子もないぞ。勉強で分からない所があるなら兄さんに教えてもらったらどうだ」
ダリアは内心どきりとしながらやんわりと首を左右に振った。
「甘えてばかりではお兄様にも申し訳ないですわ。自分で頑張らなければ」
意固地にも思えるダリアの返事に祖父は困ったような笑みを浮かべた。
「それならばよいが、無理だけはせんようにな。悪いんだがダリア、手を貸してくれないか。部屋まで戻りたいんでな」
「ええ、よろしいですよ。さぁ、どうぞ。掴まって」
掴まるといっても元々体力のある人なのでダリアの支えはほとんど必要なかった。
――本当は無理をしがちな私を気にしてわざとここまで歩いていらっしゃったのではないかしら。
ダリアはふとそう思ったが、祖父の表情からは何も窺い知ることはできなかった。
部屋の前まで来ると、祖父はダリアから手を離した。
「ありがとう、ダリア。助かったよ。勉強をするのは構わんが、程々にな」
ダリアは大人しく頷いて祖父と別れた。
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