第3章 期末考査前

1 ダリアとお祖父様

第26話 差し入れ

 十一月も下旬に入ると授業でもちらほら期末考査の話題が出るようになった。二学期中間考査の上位成績者には学内選抜学力コンテストの過去問題集も配られた。期末考査でも学力コンテストでも首位を狙うダリアにとって、戦いはもう始まっている。

 期末考査は授業内容のおさらいに過ぎないので苦でもないが、学力コンテストでは応用力が試される。ただ知識を持っているだけでは太刀打ちができない。ダリアの苦手なことだった。応用力を試されるといっても出題パターンは決まっているので慣れるしかない。兄のセルシオも言っていた。

「練習を重ねれば慣れるから大丈夫だよ。私も苦手なことはそうやって乗り越えてきた。ダリアもきっと大丈夫だよ」

 ダリアにとってセルシオは世界で一番敬愛する人だった。幼い頃から様々な躾を受けてきた人だが、そんなものがなくても自然と品のある人に育っただろう。妹のダリアにも柔らかな物腰で接してくれる。同じ家庭で育ちながら心の奥底に不安定さを残したダリアには、全てを受け入れてくれる兄の存在は救いだった。どちらかといえば兄はおっとりした母に、ダリアは厳格な父に似たのだろう。父母で上手くバランスを取っているように、兄妹も上手くバランスを取っていた。

 中等学校在学中ずっとコンテストでゴールドメダルを取り続けた兄は心強い存在だった。その気になればいつでも兄に頼れる。しかし、ダリアは兄がアイシスと勉強会を開いていることを知っていた。ここで兄に頼ればアイシスの真似をすることになる。何となく意固地になって、一人で勉強を進めようと決めた。

 学力コンテストの過去問題集を開いて机に向かっていると、「失礼致します」とメイドが部屋を覗いた。

「お嬢様、お祖父様から差し入れですよ」

 メイドは小箱を差し出した。

「お見舞いで頂いたチョコレートだそうです。疲れた時に召し上がると気持ちも落ち着くからお勉強のお供にどうぞとのことです」

 祖父は孫二人の性質も扱いも良く分かっていて、二人の邪魔にならない距離感で寄り添おうとする。ダリアもそれを汲み、小箱を受け取った。

「ありがとうございます。お祖父様にもお礼を言っておいて下さい」

「かしこまりました。お嬢様もご無理なさらずに」

 メイドはそう挨拶をして退室した。

 小箱の中には宝石のような美しいチョコレートが並んでいる。

 ダリアは一つチョコレートを取り、口に運んだ。

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