第25話 約束
シャルルは微笑んで言った。
「良かったら使って。肩に掛けてもあったかいよ」
「本当にいいの? ありがとう」
女詩人は膝掛けの下に手を入れてあたためた。シャルルはその姿を見ながら木箱の横に座った。
「あなたが来てくれて本当に嬉しい。あなたに会うと元気が出るのよ」
女詩人は言った。
「俺もそうだよ。お姉さんに会えると嬉しいし、元気になる」
シャルルの言葉を聞くと女詩人は笑った。
「不思議な人ね。私、人に元気を与えられるような人間じゃないし、人から好かれるような人間でもない」
「俺だってそうだよ」
「あら、本当? 信じられないわ」
シャルルは笑って誤魔化した。
「俺、来週から試験期間が始まるんだ。そうなったらしばらくここへは来られない。その前に、お姉さんに会っておきたかった」
「……いつも気に掛けてくれてありがとう。こんなに気にしてくれるのはあなただけよ。……この世でたった一人、あなただけ」
シャルルは赤い空を見ながら彼女の言葉を聞いた。あの帽子の男は彼女と親交がないのだろうか。彼の方は女詩人のことを知っている風だったのに。
女詩人もシャルルと同じ方を見ながら言った。
「今度、あなたが来るまでに、何か一つ、詩を書いておくわ」
「本当?」
彼女は頷いた。
「今なら何か、書けそうだから」
「楽しみにしてるよ」
「うん。あなたも勉強、頑張ってね」
シャルルは頷いた。
二人は枯れ木の側に座り、暮れていく空の色をじっと眺めた。
赤い空は紫に。そして紫は群青色へと変わっていった。
帰り際、女詩人は膝掛けをシャルルに返そうとした。シャルルは差し出された膝掛けを女詩人の肩に掛け直した。
「これはお姉さんにあげる。今度会うまで、元気でいてね。体を大事にね」
こういう風に気遣いを受ける経験が、本当に少なかったのかもしれない。女詩人はうっすら涙を浮かべ、指でそれを拭った。
「ありがとう。大切に使うわ。あなたも元気でね」
シャルルは頷いて、女詩人に手を差し出した。女詩人も手を出し、静かな星空の下、二人は固く握手を交わした。
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