2 風の歌

第80話 報せ

 翌日はからりと晴れ上がり、前日に雪が積もったとは思えないほどあたたかい日になった。

 昨日の登校時に見かけた不思議な雪の粒は当然もう解けてなくなってしまったのだろうが、一瞬でシャルルの目の前を通り過ぎてしまった儚い存在だった。授業中、何度もその雪のことを思い返してぼんやりした。自分でも不思議な心地だった。

 物思いに耽っているうちに学校の授業は全て終わり、放課になった。みんなが帰り支度を進める中、一人の同級生がシャルルに声を掛けた。

「ねぇ、シャルル、校門の前で君を待ってる人がいたよ。黒いコートを羽織った背の高い人で、『黒い帽子を被った男だ』って説明すればシャルルに分かるから呼んできてほしいって。あの人、知り合いか何か?」

 シャルルは眉を顰めた。ポート街で会う帽子の男だった。こんな所まで何の用だろうか。

「教えてくれてありがとう。その人は俺の知人なんだ。行ってくるよ」

 同級生に礼を言い、シャルルは教室を飛び出した。

 同級生の説明通り、校門前の物陰に帽子の男が立っていた。

「お兄さん、どうしてこんな所に――」

 帽子の男は手を出してシャルルの言葉を遮った。

「無駄話をしている暇はない。あの娘が息を引き取った。早く行け」

 シャルルはそれを聞くなり目を見開き、ポート街へ走って行った。

 彼女が体を悪くしていることはシャルルも知っていた。心のどこかでこんな瞬間がいつか来るのかもしれないと考えたこともあった。それでも、本当にそんな瞬間が来てしまうなんて思いもしなかった。

 シャルルは息を切らして草原の奥の煉瓦壁まで辿り着き、毟り取るように隠し木戸を開け、ポート街の眩しい大通りを走った。通りには珍しくポート街の住人達がいて、心配そうに大通りの奥を見ていた。みんな女詩人の存在は知らなくても、この奥で何かが起こったことは悟っているようだった。

 夕日の光が道を赤く染めている。その光の中に、女詩人が座っていた木箱が見えてきた。誰かが座っているような気がしたが、記憶が見せた幻だった。誰も座っていない。

 シャルルは立ち止まって辺りを見渡すと、ポート街最奥の廃屋に近付き、息を整える間もなくドアを開けた。

「お姉さん? ここにいるの?」

 初めて入るその廃屋の中にはカムリがいた。

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