第79話 決別
町を白銀に染めた雪は昼間の日差しを受けてあっという間に解けてしまい、雪解け水の音がそこかしこから聞こえた。
その日の放課後、冬休みの間に借りていた本を図書室に返しに行くと、パルに会った。パルはシャルルを見るとぱっと明るい笑顔を浮かべた。
「シャルル、久し振り。この前は見送りに来てくれてありがとう」
「うん。故郷はどうだった?」
「みんな元気だったし結構のんびりしたよ。家の手伝いも色々としたんだけど、家業の手伝いよりきょうだい達のお世話ばっかりしてたよ。小さい子達が遊んでってずっとせがんできたから」
「それは大変だったな」
勉強のために故郷を出た兄が久々に家に帰れば小さいきょうだい達は喜ぶだろう。幼い子達がパルに纏わりついてはしゃぐ姿が容易に目に浮かんだ。コーレル家では絶対に見られない景色だった。兄弟の形も色々なのだなとシャルルは思った。
二人はしばらく図書室の隅の席に座って話をした。
サクシードは留学の準備のため今後学校には通わず、学校から出される課題を家でこなすことになった。留学の準備のためというのは全くの嘘でもないが、気力をなくしたサクシードには自宅での自主学習の方が負担が少ないだろうということで、父と学校側とで話がついたようだった。なるべく早いうちに手続きを済ませ、新しい生活を整えたい。それがサクシードの希望でもあるらしかった。
サクシードと因縁のあったパルは、こうした形で縁が遠くなることに複雑な思いがあるようだった。
「もう報復に怯える必要はないからそれはよかったけれど、どうしてこんなことになったんだろうね……」
サクシード自身の撒いた種とはいえ、今後もしばらくは紆余曲折を辿りそうなその宿命に、パルは同情をするらしかった。
本来ならサクシードからパルへ直接謝罪がなければならないが、パルは首を横に振った。
「僕、謝ってなんていらないよ。離れられればそれでいいかな。サクシードが目の前にいると、やっぱり怖いもん。もう、会えないよ」
パルはそう言って俯いた。サクシードのやってきた悪事の重さを改めて感じる瞬間だった。これからサクシードがどうなるのか、シャルルにも分からない。
窓外から、ぱたぱたと雪解け水の落ちる音が聞こえた。
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