第6章 風の歌

1 新学期

第78話 雪

 三学期の始業式の朝、スウィルビンの町には雪が降った。何日も前から新聞の天気予報にも降雪注意と書かれていて、それが現実になった。わずかな積雪ながら町は銀世界に変わった。今までとは比べものにならないほど寒く、空気は肌を刺すように冷たかった。シャルルはコートの他にマフラーと手袋をつけて家を出た。口から吐く息は白かった。

 サクレット邸からはダリアが出てきた。シャルルと同じくマフラーと手袋をつけて、右手には赤い傘を閉じた状態で持っていた。

「おはよう、シャルル」

 と、ダリアは会釈をしながら言った。

「おはよう、ダリア。今日は寒いね」

「ほんとね。でも、綺麗な雪景色だわ」

「その傘、どうしたの? いつもの傘と違うよね」

 ダリアは笑った。

「よく見てるのね。年末年始の旅行の時に買ってもらったのよ。素敵な色だったから」

 年末年始の旅行というのは、サクレット夫人の故郷へ泊まり掛けで行ったという旅行のことだろう。ダリアの言う通り、鮮やかで人目を引く色の傘だった。

「ダリアによく似合う色だね」

「そう言ってもらえると嬉しいわ。ありがとう」

 二人は真っ白な高等住居区を一緒に歩いた。一本の道に二つの足跡が続く。

 ダリアはシャルルが登校途中から同級生と合流することを知っているので、高等住居区を出たところで別れた。

 レオとリリハは学園区の入り口でシャルルを待っていた。年末に慰労パーティーをして以来の再会だった。二人共普段と変わらず元気そうで、レオは雪玉を手に持って遊んでいた。

「雪玉を作って遊ぶなんて小さな子供みたいね。でも、童心に返る気持ちも分かるわ。何かわくわくするもの」

 リリハはそう言って笑った。

 シャルルもレオの真似をして雪玉を作り、すぐ隣を歩くレオと二、三往復その雪玉をキャッチボールのように投げ合った。

「もう、シャルルまで何やってるのよ」

 いつもは割合分別のある行動を取るシャルルも、レオと一緒だと時折子供のような振る舞いをした。さすがのリリハも呆れた目で二人を見た。通学路を歩く他の生徒達も雪景色に浮かれていた。

 学校に着く直前、一粒の雪がちらりと光りながらシャルルの目の前に降ってきた。妙に記憶に残る、不思議な雪だった。

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