第77話 ナイト
「今まで君に黙っていて悪かったんだが、去年の終わり頃から私はサク坊にちょくちょく葉書きを出していた。サク坊からの返事はなかったが、やはり放っておけなくてな。どうにか接触したくて何通か葉書きを出し、やっと本人と会うことができた。――それで、サク坊もこの町で色々あったから、一度町を離れて留学をしてみてはどうかと提案した。環境を変えて一からやり直した方がよかろうと思ってな」
シャルルは少なからず衝撃を受けた。トムじいさんの言う通り環境を変えた方がサクシードのためになるのだろうし、異論もない。ただ、トムじいさんがサクシードと会ってそんな話までしていたことに驚いた。誰にも心を開かなかったサクシードが、トムじいさんには心を許したということだろう。
「それで、本人は何て返事をしたの?」
「前向きに検討してくれると言っていた。場所に関しては君のお父上と相談して何ヶ所か候補地を出して、本人に選んでもらっているところだ」
「ということは、父さんもサクシードの現状についてはある程度把握してるんだね」
トムじいさんは苦笑いをした。
「君のお父上だからね。そういう勘はよく働くようだ。ところでシャル坊、君も色々と考えているようだが、留学先は決まったかね」
「俺はフィンラムに行きたいと思ってる」
「ほう。なぜそこを選んだんだね」
「……俺、ベリランダ語を勉強したいんだ。ちょっと興味があって」
トムじいさんは頷いた。
「なるほど。ベリランダはスウィルビンからは遠すぎるから、ベリランダ文化の根付くフィンラムに行こうというのだね。高等住居区の中でも人気の留学先だしな」
図星を指されてシャルルは笑った。
「さすが、トムじいさんには何でもお見通しなんだね」
トムじいさんは笑いながら窓の外へ目をやった。
「私の目には今でも君達二人の幼い頃の姿が焼き付いている。シャル坊はいつだってサク坊のナイトだった。小さな弟を守るために必死だった。――シャル坊や、君が担っていた大切なナイトの役目、私にも手伝わせてくれないかね。私は君達二人のためなら何でもしてやりたい。どうかこの爺にも、ナイトとしての役目を与えておくれ」
そんなトムじいさんの懇願を聞くと、シャルルは胸が震えるのを感じた。そうして照れ隠しのような笑みを浮かべ、そっと頷いた。
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