第76話 お茶会

 翌日の昼過ぎ、サクレット家の執事がシャルルを訪ねてコーレル邸に来た。トムじいさんが、暇だったらお茶においでと誘ってくれたのだった。父に外出の許可をもらいに行くと、気の利いた手土産を持たせてくれた。

「トムさんによろしく。ご迷惑にならないようにな」

「はい。ありがとう、父さん」

 そう礼を言って、シャルルはトムじいさんに会いに行った。

 セルシオとダリアは両親と共にサクレット夫人の故郷へ泊りがけで新年の挨拶に行き、使用人達も年末年始の休みを取っている人が多いらしく、屋敷は静かだった。

 トムじいさんはシャルルを部屋に招き入れると嬉々として自らお茶を入れてくれた。

「急に呼び出してすまんね、シャル坊。みんな出掛けてしまって寂しかったのでな」

「俺もちょうど暇だったんだ。これ、父さんが手土産に持たせてくれたものだよ」

 シャルルは父から託された菓子をトムじいさんに渡した。

「おお、これは気の利いたものを。ありがとう。せっかくだからシャル坊もお上がり。――お父上とは何か話したかね?」

「うん。ちょっとだけね」

「お父上も仕事の負担が軽くなれば家に帰る時間も多くなるんだろうが」

「今のままでいいんだよ。お互い、近すぎない方が上手くいくんだと思う」

「しかし、忙しすぎるとお父上も体を悪くされてしまうぞ」

「それは心配だけど、父さんならきっと大丈夫だよ。無理だと思ったらきっぱり身を引くタイプだろうし」

「シャル坊がそう言うのなら、そうなのかもしれんな」

 トムじいさんは微笑を浮かべて頷いた。

 二人はソファーに向かい合って座り、トムじいさんの入れてくれたお茶とシャルルの持ってきた菓子を味わった。

 二学期は色んなことがあって慌ただしく過ぎていった。こうして落ち着いてお茶をする時間もなかった気がする。

「ところでシャル坊」

 と、トムじいさんが改まって訊ねた。

「留学のことは何か考えているかね」

「うん。一応、考えてはいるよ」

「そうか」

 トムじいさんはカップをテーブルに置き、真っ直ぐシャルルを見つめた。

「実はなシャル坊、今日君に来てもらったのは、話しておきたいことがあるからなんだ。――サク坊のことだ」

 突然のことにシャルルは緊張を覚えながらトムじいさんを見た。

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