第75話 父子

 新年は静かに明けた。いつも忙しい父も年末年始はコーレル邸に戻り、短いながら息子達とも言葉を交わした。シャルルも年の明けた朝、久々に父と対面した。細身のシャルルと違って父は肩幅も背中も広く、がっちりした体格だった。どこかカムリにも似た体付きだが、性格はまるで違った。昔の母はこんなに気難しい父のどこに惹かれたのかと思うくらい、取っ付きにくい人であった。血を分けた息子達に対しては良くも悪くも独特の情があるらしく、一応、不器用ながら父親らしく振る舞う一面もあった。

 シャルルが父の部屋に入ると、父は窓の方を向いてシャルルに背中を見せていた。黒々とした剛毛を七三に分けて整髪料で固めている。

 入室する人がいると分かっていてその人に背中を見せる様は、いかにも偏屈な父らしかった。

「久し振り、父さん。お帰り」

 シャルルの声掛けに、父は「ああ、ただいま」と言ってちらりと横顔を見せた。

「私が留守の間、変わりはなかったかね」

 父の声は重厚だった。変わらない声だなと思いながらシャルルは頷いた。

「特に変わりはなかったよ。父さんも元気そうでよかった」

「シャルルもしばらく見ないうちに背が伸びたな。顔付きも凛々しくなってきた」

「そうかな。自分ではよく分からないけれど」

 シャルルは苦笑いをした。成長を認めてもらえるのは嬉しいが、反面、親子の間に埋めがたい空白があることの証明でもあった。普段は気にならなくても、ふとした瞬間に不満が過る。

 過ぎ去ってしまったものを蒸し返しても仕方ない。仮に父の在宅時間が多かったとしても、親子関係が上手くいったとは限らない。父は人付き合いに関しては不器用だし、シャルルはそれを受け入れられないでいる。物理的に距離があった方がお互いのためなのかもしれない。

 父は横顔を見せながら流し目でシャルルを見た。

「シャルル、お前もそろそろ留学のことを考える時期になっただろう。何か考えているか?」

「一応、興味を持ってる町はあるけれど」

「行きたいところに見当がついているのなら聞かせてもらいたいのだが」

「フィンラムの町辺りを考えてるよ」

「なるほど。いい町だな。悪くない」

 父はシャルルの希望に特に異論を唱えるわけでもなく、すんなりと頷いた。

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