第57話 流血

 中等学校入学直後の初対面時から、サクシードの瞳はナイフのように鋭く光っていた。口元は引き締しめられ、頬の筋肉はぴくりとも動かない。誰のことも寄せ付けない冷たい表情だった。パルも偶然サクシードと目が合い、背筋が凍るほど怖い思いをした。そんなことを思い返しながら裏庭に向かった。

 冬の赤い夕暮れが町の空に広がっていた。裏庭に入ると光は遮られ、冷たい陰が広がっていた。

 取り巻き二人はまだ来ていない。校舎のどこかの窓から裏庭を監視し、パルが来たのを見計らってこちらへ来るのだろう。

 裏庭の奥で待っていると、二人は連れ立って現れた。サクシードはいない。

 よくよく考えてみれば金銭も要求してこなかったし、首領のサクシードもいない。この二人は何のために自分を呼び出したのだろうとパルは思った。もしかしたら自分の知らないところでサクシードが二人だけで報復をするように指示を出したのかもしれないが、さっきの恫喝の様子だとそうでもなさそうだった。

 パルは二人に訊ねた。

「サクシードは来ないの?」

「ああ、来ないよ」

 と、二人のうちの一人が答えた。パルは臆することなく二人に訊ねた。

「君達二人だけで報復するの? 君達はいつも僕を押さえる役目だったよね。手を出すのはサクシードだった。サクシードもいないのにどうやって報復なんてするの?」

 挑発とも思えるパルの言葉に取り巻きの一人が苛立ちを覚え、足早にパルに近付いた。

「サクシードがいなくても報復はできるんだよ」

 取り巻きはそう言いながら手を突き出し、パルの肩を激しく押した。思わぬ勢いで体を押され、パルは後ろに突き飛ばされた。ちょうど踵の辺りに小石が埋まっていてそれに躓く形になり、背後の校舎の壁の端――直角になっている角の頂点部分に強く頭を打ち付けた。鋭い痛みが走った。足の力が抜け、ずるずると地面に座り込んだ。

 取り巻き達はぎょっとした。パルが頭を打ち付けた壁に、うっすら血痕が付いていた。

 パルが頭に手を当てると、赤い血が掌に付いた。両者どちらにとっても予想しない展開だった。

「お前、何やってるんだよ」

「いや、俺のせいじゃないし」

 取り巻き達は小声で話しながらおろおろしていた。

 パルが掌の血を眺めている時だった。

 一人の生徒が裏庭に飛び込んできた。

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