3 裏庭にて

第56話 取り巻き二人

 サクシードは気力を失いながらも通学を続けていた。試験結果は今までにないほど悪いものだったが、近頃のサクシードの変化に気付いた周囲の大人達は叱責も心配もしがたく、声掛けすらできなかった。

 取り巻き達もどう接していいか分からないながらサクシードの後に付いていた。試験が終わればきっとまたパルを呼び出して報復するに違いない。そうすれば元のサクシードに戻るはず。そう考え、サクシードからパルを呼び出す指示が出るのを待った。しかし、いつまで経ってもサクシードはパルを呼び出さない。教室でたまたまパルと近付くようなことがあってもぼんやりするばかりだった。とうとう痺れを切らし、取り巻き達は訊ねた。

「サクシード、今回はパルを呼び出さないのか? ちゃんと報復しておかないと調子に乗るぞ、あいつ」

 そう声を掛けてもサクシードは何も答えなかった。取り巻き二人は顔を見合わせてどうするべきか考えた。中等学校に入学してから試験後は報復が待っているという習慣が染み付いてしまい、首領のサクシードが乗り気でなくても何かしなくてはしっくりこないという気持ちだった。――そんな考え方をするくらいなので、この二人も元から品行方正な少年ではなく、品性の卑しさをサクシードに嗅ぎ取られ利用されているに過ぎないのだった。仮にサクシードがいなくてもこの二人は周囲から嫌厭される存在だっただろう。小さな嫌がらせは二人の周りでごまんと起きている。

 彼らはサクシードの許可もなく勝手にパルを人気のない廊下の隅に呼び出しこう言った。

「お前、今回は何もなくて油断してるだろう。コンテストでメダルを取ったからって調子に乗るなよ。放課後、裏庭に来い。サクシードがいなくても俺達だけで報復してやる」

 冬休み前に報復されるのではないかというパルの不安は的中した。何度経験しても恫喝されるのは怖い。サクシードの様子がおかしいので今回の報復はどうなるだろうとパルも思っていたが、取り巻き二人が自主的に動く形で始まった。サクシードが主導する時には大金を要求し、その準備期間として必ず一晩は猶予があるが、今回はお金の要求もないし、その日のうちに裏庭に呼び出された。色々と勝手の違う恫喝だった。

 今は昼休みなので、あと二時間授業を終えたら放課後になる。

 ――どうか、体の目立つ所の怪我だけは避けられますように。

 パルはそう祈りながら、廊下の窓から外を見た。

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