第58話 抜け殻

「パル!」

 と、突き抜けるような女子生徒の声が響き、三人は驚いてそちらを見た。彼女は取り巻き達の脇をすり抜け、裏庭の奥に座り込むパルの肩を支えた。

「パル、大丈夫?」

 そう声を掛けたのはアイシスだった。

「アイシス、どうしてこんなところに来たの」

 パルは強い口調で訊ねた。

「校舎の窓からパルのことが見えたからよ。怪我をしたの?」

 アイシスがハンカチを出そうとするのを止め、パルは言った。

「アイシス、シャルルがまだどこかにいるかも知れないから探してきてくれる?」

「でも……」

「お願い、シャルルならきっと助けてくれるから」

 アイシスは戸惑いながら頷き、再び取り巻き達の真横を通って裏庭を出ようとした。

「――あっ」

 小走りで校舎の角を曲がろうとした時、アイシスは立ち止まって一歩後退った。アイシスの他に誰かいるらしく、微かに足音が聞こえた。アイシスはすれ違いざまに一瞬彼の顔を見て、それから正面玄関の方へ駆けていった。彼も一瞬アイシスを睨んだが、彼女に執着することはなく、裏庭に入った。

 現れたのはサクシードだった。冷たい目をし、口元を引き締め、頬の筋肉はぴくりとも動かない。入学直後からパルが怖れた瞳が、陰の中でも光っていた。

「サクシード」

 取り巻き二人も呆然とサクシードを見た。

 サクシードは辺りを見渡し、裏庭の奥に座り込んでいるパルを見つけてしばらく凝視した。

 取り巻き二人はどうしたものかと顔を見合わせた。

「お前達、何かしたのか?」

 サクシードにそう訊かれ、取り巻き達は狼狽えた。

「あいつが勝手に転んで怪我をしただけだ。俺達は何もしてない」

 一人の取り巻きが答えると、もう一人の取り巻きもサクシードに迫った。

「サクシードの方こそ何やってたんだよ。最近様子が変だし、報復の命令もしないし、そうかと思えば変なタイミングで現れて、何のつもりだよ」

「…………」

 サクシードは何も答えずに取り巻き達を見た。その瞳は光を抱きながら、抜け殻のように虚無だった。

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