第59話 報復の終わり

 パルは掌に付いた血を拭いもせずにサクシードと取り巻き達の会話を見守っていた。後頭部からはまだ血が流れている。

 サクシードの沈黙で辺りが静まり返る中、裏庭の入口から足音が聞こえ、シャルルが顔を出した。

「パル?」

 パルを探すシャルルの声に、その場の全員が振り向いた。その弾みでサクシードとシャルルは目が合った。二人共驚きと戸惑いで表情が固まったが、シャルルはさっと視線を外し、奥で座り込んでいるパルに駆け寄った。

「パル、大丈夫か?」

「僕は大丈夫だよ」

 シャルルはパルの肩を支えながらサクシードを見た。

「お前がやったのか、サクシード」

 サクシードは何も答えずにシャルルを見ていた。

「シャルル、やったのはサクシードじゃないよ。そっちの二人」

 パルがそう言うと、取り巻き二人はぎょっとして後退りをした。

 シャルルはそちらを一瞥しただけでまたサクシードを見た。

「サクシード、これ以上人を傷付けるのはやめろ。どうしても誰かを殴りたいなら、お前がこの世で一番憎んでる奴を殴ればいい。それが誰なのか、自分でよく分かってるはずだ。関係ない他人を傷付けるな」

「…………」

 サクシードは長い沈黙の後、小声でぽつりと言った。

「……もう、興味ないんだよ。そいつにも、こいつら二人にも」

 サクシードはパルを見た後取り巻き二人にも視線をやった。

「……俺はもう疲れた。何も考えたくない。……お前達二人ももう付いて来るな。俺のことは放っといてくれ」

 サクシードはそう言うと、踵を返してゆっくりと裏庭を去っていった。ここで首領に去られては自分達が咎められてしまう。付いて来るなと言われたが、取り巻き二人もサクシードを追って去っていった。

 三人が去ると、裏庭の手前で様子を窺っていたアイシスがパルに駆け寄った。

「パル、シャルル先輩、大丈夫ですか?」

 シャルルはアイシスを見ると呆れたように溜め息を吐いた。

「アイシス、危ないから帰るように言ったのに」

「でも、お二人が心配だったので。――パル、怪我は大丈夫?」

「僕は大丈夫だよ」

 パルは痛みに耐えながらそう言った。

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